開館20周年記念特別展 「維新の洋画家 川村清雄」展@江戸東京博物館

開館20周年記念特別展 「維新の洋画家 川村清雄」展@江戸東京博物館 

2012年10月8日(月)〜12月2日(日)

 江戸東京博物館の展覧会を機会に、を初めて名前として知ったが、既にNHK大河ドラマで「篤姫」「勝海舟」の肖像画を描いた作品は見ていた。「福澤諭吉」の着物姿も川村清雄の作品であった。

 入口より、幕臣川村家としての文物、書簡、津田梅子に麻疹を移されたエピソードも添えるなど、美術展とは趣向が違って興味深い展示。
徳川家達との文通書簡もまた微笑ましい。
 徳川将軍代々の肖像画天璋院篤姫)などは川村清雄でなければ描けない。
静物写生』(47)緻密なデッサン力の確かさと和物と洋物を組み合わせる構図に、その川村の心義が感じられる。
《形見の直垂(虫干)》(107)は勝海舟没後にその胸像や遺品を配置し描く。生涯かけ敬慕した恩人への愛がその真白な直垂に込められる。
作風を見ていると、「洋画家」という表現より「油絵師」という言葉がふさわしいほど、デッサン力、油絵具の特性を生かしつつ、日本伝統美を表現する技量は素晴らしい。
 油絵で日本画の特徴である、余白や空気をも描き出す。さらに大胆なのは、”絹本”に油彩で屏風を描くことだ。また板に漆と油絵を使い分けて描き出す。それはまさに日本美そのもの。こんなすごい技は、黒田も由一もしなかった。画題もいと小さき愛らしいいきものを描き、岩絵の具が油絵具になっただけでなく、その心意気に奥行が生まれる。
自然を描く姿はコローやギュスターヴ・クールベを想起する。波濤の白絵具の厚塗りに自然を捉えた勢いがある。

 記念式典では清雄の孫よりご挨拶があった。大変品の良い御婦人で、お父様がずっと明治美術研究で川村清雄再評価に向けて学んでいらしたとのこと。

川村清雄(嘉永5年4月26日(1852年6月13日 - 昭和9年(1934年)5月16日)
 幕府御庭番幕臣川村家資系に生まれ、明治維新後は徳川家とともに駿河に下る。
それからまもなく渡欧(パリ、ヴェネツィア)し本格的にアカデミズムの油絵を学んだ日本人画家。しかし、帰国した日本洋画壇では、黒田清輝藤島武二、らフランスのサロンに倣う東京美術学校出身の画家たちが中心となっていた。
帰国後、大蔵省印刷局に入るも、キヨッソーネとの仲たがいが早々に退職。その彼を、勝海舟夫妻が支えわが息子のように庇護した。

 清雄の最大の庇護者であった勝海舟に捧げられた《形見の直垂(ひたたれ)(虫干)》(東京国立博物館蔵)をはじめとする絵画の代表作や初公開作品を含む約100点の絵画が一堂に会する最大規模の回顧展。
 フランスへ渡った晩年の傑作《建国》(オルセー美術館蔵)が初めて日本に里帰りする。昭和4年(1929)にパリ・リュクサンブール美術館に納められたこの作品は日仏ともにこれまで展覧会場で公開されることがなかったという。
本展はこの秘蔵の傑作を目にできる。

 さらに、清雄が絵画の理想としたヴェネツィア派最後の巨匠ティエポロの名画《聖ガエタヌスに現れる聖家族》が、ヴェネツィアから来日します。
鮮やかな色彩と光の表現は、若き川村の作風と合わせて観るのも良い。

 歴史資料約100点を集結し、幕末から明治・大正・昭和へと続く激動の近代を生きた清雄の人生を、彼を支えた徳川家達)や勝海舟など人物交流のエピソードを織り交ぜて立体的に描く。川村の作品が明治時代からの華麗なる名家で愛蔵された様子もわかる。

 美術館や博物館に所蔵されている作品だけが美術品でない。日本美術史に記載されている作家だけが芸術家ではない。

 日本美術史はかなり時の権力者によって評価されたものだけが記述されて、それ以外は存在すら忘れられているが、丁寧な日本美術史研究家によって再評価が進んでいる。この川村清雄もその家族がずっと明治美術を研究しまとめたもの。そういった地道な努力がこのような展覧会として広く知られる機会となるのはありがたい。

 明治維新史とともに、当時大きく揺れ動いた西洋化の中で、日本の精神、美の観念を保持しつつ新しい油絵という技術で表現した業績は高いものではないか。
 高橋由一の鮭が全国に配られ存在するゆえに知名度が高いが、実は川村清雄の方がずっと日本風土で培われた美意識を表現する方法としては格段だと思う。『蟹図』(188)などのリアリズムを見ればおのずと理解できるだろう。

 図録は厚みの割には軽く、巻末には論文と「川村清雄をもっと知りたい方のための読書案内」もつく。幻の画家ではない、しかし正しく評価する時期ではないだろうか。
 和魂洋才 その言葉が一番相応しい 人物ではなかろうか。

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弐代目・青い日記帳

まだまだ川村清雄を見直す展覧会がある。
 もうひとつの川村清雄展は目黒区立美術館で開催している。
加島虎吉と青木藤作−二つのコレクション
2012年10月20日(土)〜12月16日(日)