池田学「誕生」@ミヅマアートギャラリー

9月9日まで 
池田学「誕生」ミヅマアートギャラリー


≪誕生≫が誕生するまで The Birth of Rebirth
≪誕生≫が誕生するまで The Birth of Rebirth(青幻舎)
美術手帖 2017年4月号
美術手帖 2017年4月号(美術出版社)
池田学 the Pen
The Pen(青幻舎)

超絶技巧として紹介されていた池田学
私は2006年「興亡史」を見たいと中目黒に当時あったミヅマアートギャラリーで出会ったのがきっかけ。春には「The Pen]出版記念で青山ブックセンター山下裕二教授と対談をされていた。

池田学氏自身からのトークがあったのでメモ代わりに記録する。

カナダ・バンクーバーでの文化庁海外派遣を経て、アメリカのウィシコンシン州チェ−ゼン美術館でのレジデンスアーティストとしての3年そして3か月を経て完成した大作。
佐賀県立美術館金沢21世紀美術館を巡回している池田学「The Pen−凝縮する宇宙−」展のうち「誕生」と小作品が東京市ヶ谷にあるミヅマアートギャラリーで9月9日まで、壁一面を飾る。縦3m×横4mの巨大な画面ゆえ上部まで細やかに見ることが出来ない。その後、日本橋高島屋で9月27日から10月9日まで展示される予定である。
そのため、青幻舎からは図録、制作過程や細部の解説を付けた「≪誕生≫が誕生するまで The Birth of Rebirth」が出版された。

 2011年1月から文化庁芸術家在外研修員としてバンクーバー滞在していたが、2011年3月11日テレビであの画面が出て、それが日本であることに驚き恐怖や無力感を感じた。カナダでアーティストとしてビザが下りず悩んでいた時に、作品を知る美術館からチェ−ゼン美術館での3年間の滞在創作に誘われた。

 その後、世界中で繰り返される自然災害と人間、立ち上がる、祈りについて考えていた。そして自分が3年で描けるペースを考慮して、縦3mのボードを4枚用意してもらった。
 いつもは、Gペン丸ペン、カラーインク、アクリル顔料で描いているが、今回から影部分のみ薄く水彩絵の具を使うことにした。線描だけでは背景に白色が感じられるのが気になった。描くのでわからないが、うっすらと水彩を施すことで深みが出てきた。

 画面は大きく3つに分けて考えられ、最初は左下の瓦礫や荒波の部分、次に樹木の部分、そして上部の花にあたる部分である。当初は繊細な線の細さから、真白に広がるパネルの巨大さに圧倒されたが、まずは描いている部分にだけ集中するようにした。
 チェーゼン美術館で良かったことは1時間だけ一般公開し来場者と会話をすることが出来たことだ。それが救われた。自由な発想でこれを描いてと頼まれることもある。やがて「もっと楽しく描いて良いのではないか」と思えるようになった。アイディアが生まれていくのは、考えたり忘れたり、アタマの隅に置きながら進めていた。

 樹木が描きたいと思った。樹は生物であり自然であり、何千年もの時間の象徴である。幹や木肌の細部まで描こうと思った。
 その頃、右腕をスキー事故で痛めてしまい全く使えなくなってしまった。まるで肉の塊のようだった。右腕が使えなくなった事実を三潴さんに電話で伝えたところ激怒された。すべて完成に向けてスケジュールが組まれているのに、休むことは出来ない。2016年9月までに美術館で仕上げなければならない。
 ちょうどその時に、左腕の開発を意識した。それは神様が与えてくれたチャンスなのかもしれない。親友「会長」の影響も大きかった。癌になっても「一日一日が楽しいと感じ、そして感謝する」大切さを教えてくれた。それから自分の筋肉や神経を鍛えながら左腕で挑戦していった。絵では枝に神経が絡み合うように、そして再生して花を咲こうとしていると意識した。自分の 身体で起きていることは地球上の自然で起こっていることと繋がっているような気がした。
 当初、花は描きたくなかった。瓦礫の上の樹木が復活して花を咲かせるという安易な図式にするのは嫌だったからだ。
 だが、2人の子ども達の誕生と成長から、はかない花をプロペラやキャンプテントなど用いて描く方法を見出した。本物の花ではない、かりそめの花。花にみえるような部分は、新しく生まれる命、なくなっていく命を囲むように人がいる。蕾の部分も祈り続ける手の形で描いたりしている。
 
 当初は震災を描こうとしていたが、次第に自分自身のいろんな体験や思いから自分自身の問題と向き合う機会となった。
「誕生」ということは失ってゼロベースから始まる生活をも意味している。

 画面では花のように見える中で、土下座している人自殺している人もいる。白い花の部分は新たに授けられた命、そして黒の花の部分は、なくなる命を見送っている。放射能のマークを花に譬えている場面がある。白雪に見えるのは放射線物質。らくだに乗ったキャラバンたちは、安全な水が飲める場所を探して彷徨うそんな象徴である。

 今回は波を描くのがとても楽しかった。これからの作品ではもっと波に取り組んでみたい。

 会場から質問もたくさんあった。池田学さんの描く水墨画が見たい、という希望について池田氏自身も関心があり、さっと描く墨部分と緻密に描く込む線描を組み合せてみたいとのこと。超絶技巧は近づき遠目でも味わいたい。