桜・さくら・SAKURA 2012@山種美術館

桜・さくら・SAKURA 2012@山種美術館

 弐代目・青い日記帳Takさんが企画してくださる山種美術館鑑賞会
特別に、館長が解説してくださった。

今回特別な配慮で館内を撮影させて頂いた。

三番町に美術館があった頃は、毎年春になると「桜、美術館で花見」を企画して千鳥が淵の桜と共に定番の鑑賞になっていたはず。日本人が桜好きなのは、日本画の画題でも同じなのだろうか。
桜そのものを鑑賞する良さには適わないが、日本画の桜は「色」そして「大きさ」をこの美術館の中で体感して欲しいとのお話。胡粉と岩絵の具。

 入ってすぐには奥村土牛『醍醐』(4))が迎える。山種美術館でも有名な切手 80円切手は春の大事な手紙に使っていた。さて、この「醍醐」の美しい淡紅は、”綿臙脂(わたえんじ)”という大変高価な画材を用いるそうだ。

 コチニールライラックカイガラムシ)の体液を綿に染み込ませたもの。ちょうどその晩テレビ「美の巨人」の中で、その製法を紹介していた。綿を切り取り水で浸す。そして砂糖水で溶かしたものを熱で水分を飛ばしてやっと絵の具になる。胡粉に混ぜると綺麗な色が出来る。油を嫌うので扱いが大変だということ。胡粉に何度も重ねることで、はんなりとして上品な薄紅色になっていく。今回は綿臙脂の実物を見せていただけた。東京芸大教授・ 宮廻正明教授から頂いたそう。今では使う人は、なかなかいないそうだ。

 日本各地の桜、桜を愛でる、桜を描く というテーマで屏風、掛軸、写生図などさまざまな形態の桜を紹介する。
 東山魁夷『春静』(11)は高価な岩絵の具緑青を焼いて、その緑の濃淡を表現しているという。奥村土牛『吉野』(12)、セザンヌを意識した色面構成、というお話と歴史画として描いたというエピソードに、今までとはまた違う見方が出来た作品。
小林古径清姫のうち入相桜』(15)、そして速水御舟道成寺入相桜』(16-18)と丹精な美しさ。
富田渓仙『嵐山の春』(3)は屏風を修復後初公開とのこと。

会場奥手は、奥田元宋奥入瀬(春)』(21)は大画面で清流からすがすがしい空気が感じられる。

桜を愛でるという章では、松岡映丘『春光春衣』(25)、吉川霊華『春光』(26)が王朝美を描く。橋本雅邦『児島高徳』の太平記にちなんだ画題など見れば見るほど興味深い。
加藤登美子『桜の下の満開の下』(32)ニューヨーク在住の知られざる作品。
 桜咲く風景として玉堂の作品。館長の父、山崎種二氏と玉堂は懇意にしてよく奥多摩に通ったという話をされた。
 今回一番気になる作家は、稗田一穂『朧春』(46) まだご存命の作家。桜の表情の繊細な事。是非他の作品も観たいと思った。
 日本画家の作品は宮中に収められるが、それと同じものを描いてもらったというのが、
橋本明治『朝陽桜』(22)、上村松篁『日本の花』(48) 宮中で配される作品の写真を添えて紹介している。普段なかなか入れない、宮中の作品をこうやって美術館に収めて頂けるのも山崎種二氏のお人柄ゆえの収集ではないだろうか。

 第二ギャラリーでは川端龍子をはじめ桜の幹を中央に据えて描いた作品が並ぶ。また。渡辺省亭『桜に雀』(58)木に雀が三羽とまって語り合う様、鳥の瞳が可愛らしい。当時は内国勧業博覧会でも人気がある画家で、再評価されるのでは、とのお話。
 小林古径速水御舟の桜花が似ている点を鑑賞者が指摘すると、館長が御舟夫人から伺ったエピソードで、いつもは無口だった小林古径だが、御舟と一緒だと何時間でも語らっていたという。御舟と古径は画塾の先輩後輩の中で、とても仲良かったが、後年は古径は線描きを、御舟は色面を意識し、画風では違う道を目指していったとも。

 家族で夜、テレビ東京「美の巨人」600回(4月14日放送)を見て、この絵が欲しい、と溜息をこぼす。明日から、きっと山種美術館の花見は混雑するに違いないが、絵とは心静かに鑑賞できたらどれだけ贅沢だろうか
 この企画に合わせてミュージアムグッズも桜色に染まっている。

 菓匠菊家の日本画に題材を得て創作した和菓子も美味。

 さすが山種美術館らしい。家庭画報2012年5月号の連載記事は「胡粉」で、まさに『朝陽春』と共に紹介されていた。着物姿も多く、優美な雰囲気を心待ちにした鑑賞者が集うのも特徴ではないだろうか。