「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション展」山崎館長トーク@山種美術


ザ・ベスト・オブ・山種コレクション


平成24年1月8日 青い日記帳blogを運営しているTakさんが主宰して、山種美術館を貸し切りで山崎妙子館長の開設による内覧会が開かれた。Twitterという新しいSNSを使い集客は100名余。幅広いtwitter人脈が集う会場ながら、館長が丁寧に解説をされた。

今回、注目はベスト版であるだけあって、どれも優品尽くしだが、とりわけ「御舟美術館」と言われるほど 速水御舟作品を持つ当館のコレクション2室での「炎舞」は必見。開館してから3度目だが、今回こそ絵を引き立てる環境はない。漆黒に浮かぶ作品は誰もが引き寄せられるだろう。

 今回は「後期、戦前から戦後へ」(文中、山崎氏=山崎種二氏)
 まず洋画が並ぶ。
 小林古径(1)日本画家が描く油絵の端正な美しさ。中国絵画の影響を指摘。
 黒田正輝(2)額装にも目がいく。
 佐伯祐三(7.8)フランスの町の空気まで閉じ込めたらしい。屋外で描く作品ならでは。入場者から「山種にも佐伯(油絵)があったのか」と驚かれるという。

 次は、近現代日本画へ
 川合玉堂(10)「早乙女」が画題として愛したもの。愛らしい乙女の表情もぜひ。
 奥村土牛(11,12,13)は38歳院展入選の遅咲きの画家という。山種美術館創始者の山崎種二氏が公私にわたり支えた。若い頃に山崎氏に「才能があるからこそ応援する」といわれたのが心に残っているとのエピソードも披露された。「城」(11)は姫路城を見上げてセザンヌばりに画面構成をして不思議な空間を感じる。「醍醐」(12)は、綿臙脂(貴重な画材:紅虫(コチニール)を綿に浸み込ませる)と胡粉を混ぜて、あの淡く美しい桜色が出せるそう。「鳴門」(13)は淡い色ながら胡粉が力強い重なりで鳴門の渦に引き込まれるような見事さ。「奥村土牛」展でも惹かれるが、時々筆の毛まで塗りこまれて息遣いも感じる。

 速水御舟の「翠苔緑芝」(14)で紫陽花のひび割れたような豊かな表現の秘密や、日本画材にない枇杷色についてなど、館長ご自身が東京藝術大学の博士論文で「速水御舟」を執筆された経験から色々おはなし下さった。
もっと知りたい速水御舟―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
 落合朗風「エバ」(15)は、ゴーガン日本画版のように熱帯の空気が濃密に描かれた作品。
奥に一面に広がるのは「満ち来る潮」(21)東山魁夷 皇居新宮殿に飾られている横幅9m超の大作があるが、一般市民に観られるようにと山崎氏が依頼したという。何度かお願いして実現したという。大画面の右上から金銀、プラチナなどを使って波飛沫を表現している。岩は画材緑青を少し焦がして作る「焼緑青」で描いたという。
この美術館建築はこの作品が展示出来るように採寸を計算されており、更に画家自身の指示でフットライトを当てる特別仕様になっている。
作品のために作られた美術館というのが最近多いが、幾つか展示替えを行い必要がある日本画についても配慮して設計されているのは心憎い。
 川端龍子「鳴門」(16) 元は油絵だったがボストン美術館での体験から日本画に転向した事を山種美術館の解説で知っていた。この群青色の迫力ある大画面に惹かれる。江ノ島の渦からこうダイナミックを描ける想像力が凄い。
 小倉遊亀、伊藤深水、橋本明治と美人画が並ぶ。
 福田平八郎「筍」(18)の輝く黒い皮や、「花菖蒲」(19)の凛とした花も良いが、「牡丹」(17)深みのある濃淡の花弁は魅力的。裏彩色を施し、絹の裏から金箔を貼る事で、優しい陽光に包まれた美しい牡丹の豊かな表情が出ているもの。
横山操「越後十景のうち蒲原落雁」(29)
 上村松篁「白孔雀」(30)胡粉を定着させるのは大変だとの事。ハイビスカスの黄色も日本画材にはない色だという。秘密がいつか公開されるといい。
 高山辰雄「座す人」(32)背景が多彩ながら人物が訴える大作。山崎館長も高山先生に可愛がってもらった話など、実際に展示されている日本画家の方との交遊のエピソードも。
 杉山寧「曜」(33)、飛翔する鶴二羽。「先生のデッサン力は素晴らしい」という程、立体的にその拡げる羽と二羽の重なりが美しい絵。
 加山又造「満月光」(34) 昭和の琳派と言われる画家の意匠的な花々と力強い浅間山の山肌。
 平山郁夫「バビロン王城」(35)はシルクロードを丁寧に取材し今は砂漠に消えた王城の栄かを描く。贅沢なまでに群青色を用い、薄い彩色を何度も何度も繰り返してあの厚みに塗り上げるそう。
 山崎館長が博士論文執筆されている際に、実際に自身で日本画を描く事も勉強するようアドバイスされ、実際に日本画を教授されたという話もさすがと感心する。
日本画材の販売 製造店として有名なのが京都老舗専門店放光堂(ほうこうどう) 日本で唯一、一から岩絵の具を作って小売りするそうで著名な日本画家はここで購入するそう。しかし大画面で色が変わってはいけないので、日本画家は高価な群青や緑青も大量に購入されるという。

 コレクション第2室では暗い室内ながら絵を引き立てるライティング。「炎舞」(40)は山種美術館が誇る重要文化財のひとつで、今回は最高の状態で拝見できる。この蛾の舞姿、炎と煙、その彼方の闇まで色まで徹底的に研究して制作されたという。
速水御舟―日本画を「破壊」する (別冊太陽 日本のこころ 161)
その右手には「紅梅・白梅」(41)の二軸があり、山崎氏が大事に飾っておいた最初の御舟の作品だという。「春昼」の家屋の中の梯子まで細やか。「牡丹花(墨牡丹)」(42)も引き込まれる墨色。

 日本画は高価の岩絵の具を用い、絹地や紙に表現されるその世界の深みは、作品ごと宝石のようなもの。同じ内容のことを先日の日本画家・松井冬子さんもクロストークで語っていたのが印象的で、やはり日本画を描く人ならではの視点。

 家庭画報での連載2012年2月号は「載金きりがね)」。才色兼備の館長と共に日本画材の魅力を知るのも素敵。ちなみに2011年12月号(ショップにあり)では大観の別荘を訪ねる取材で館長が登場。
家庭画報 2012年 01月号 [雑誌]

 次回の展覧会は「和の装い −松園、清方、深水」着物での装いに相応しい展覧会。
これは恵比寿駅から上り坂を歩くより、車か渋谷駅からバスがオススメかも。美しく華やかな着物姿で会場を埋めていただきたいもの。2月11日から春を感じる装いで。

 今回ショップにあった『速水御舟の芸術』(日本経済新聞社)を拝読した。山崎妙子館長でしか出来ない所蔵作品や関係者への取材など丁寧であり、とても分かりやすい表現を用いてまとめられた一冊。今回の「翠苔緑芝」の紫陽花の話や「炎舞」に冠する考察など知ることができた。
図録は2000円ながら良心的な内容。山種美術館の所蔵品でベスト版は重要。ただし、図録の印刷技術がどれだけ優れていても、実際に作品を目の前にして岩絵の具の微妙なマチエールを感じることには適わない。

 山種美術館は、昭和41年に兜町での山種美術館が開館したそうで、私も平成になってから何度か見せて頂いた。木目の落ち着いた中で、大作をたくさん見せていただいた。
それから閉館が決まりあのコレクションの運命を憂いたが、平成10年に三番町のビルで小さいながらも良質の展覧会を続けていらした。掛け軸ごと透明のケースに入れるという手法、ライティングなども丁寧な会場であった。
晴れて平成21年に広尾で開館して何度か訪れたと思う。今回も展示ケースや照明器具には非常に細やかな配慮がされており、最良の環境で日本画を見ることできるだろう。

「絵は人格である」と私費でコレクションを成した山崎種二氏を祖父に持つ。多くの日本画家と交流し、自身も大学院で速水御舟を研究し、日本画をも学んだという才色兼備の館長。交遊や画材など隠れたエピソードを聞きながら鑑賞する贅沢さに感謝する企画だった。