シュルレアリスム展@国立新美術館

シュルレアリスム展 
会期: 開催中〜5月15日(日) ※毎週火曜日休館(ただし5月3日、10日は開館)

パリのポンピドゥセンターはシュルレアリスムに関する所蔵作品が充実しており、今回選りすぐられた作品を元にして、国立新美術館の空間で体験することが40年タイムトンネルのよう。

ぐるぐる脳味噌かき回す展覧会を振り返る。凄く濃厚な体験であった。
シュルレアリスムの影響を様々なチラシ、雑誌、本も添えて物語を深める。そこには日本の「みずゑ」まで。ポンピドゥセンターの収集姿勢が素晴らしい。
1919年から1966年まで激動の時代を生き抜いた芸術運動を5つの時代に分けて語る。

1:ダダからシュルレアリスム
1919-1924
シックな黒から物語は始まる。活躍した美術家たちの集合写真が迎える。流れにあわせて黒から鮮やかな差し色を加える。
 1914年のマルセル・デュシャンとキリコ「アポリネールの予兆的肖像」から始まる。チラシ、雑誌、本も添えて物語を深める
そして黒く半円形の銀の言葉に包まれてビロード布に神聖なる書物のようにライトアップされて鎮座するアンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」
シュルレアリスム宣言・溶ける魚 (岩波文庫)

2:ある宣言からもうひとつの宣言へ
1924-1929
エルンスト「キマイラ」、甘美な死骸(Cadavre Exquis) そしてジョアン・ミロシエスタ

3:不穏な時代
1929-1939
エルンスト「百頭女」連作が続く。コラージュ マグリット「赤いモデル」、ダリ「不可視のライオン、馬、眠る女」。ここにはジャコメッティの細くない彫刻が登場する。アンドレ・マッソン「迷宮」ギリシア神話を思わせる牛の頭。
百頭女 (河出文庫)

4:亡命中のシュルレアリスム
1939-1946
1939年フランスからアメリカへ亡命する作家が増えてきた。1939年はマッタ、タンギー。1941年ブルトン、マッソン。1942年デュシャン。マッソンはブルトンと亡命し「アンドレ・ブルトンの肖像」を1941年描いている。タンギー、そしてフランスのシュルレアリスムの影響を受けたポロック「月の女が円を切る」

5:最後のきらめき
1946-1966
ジョセフ・コーネル「博物館」。弟のために作った作品だそう。
エルンストの妻ドロテア・タニング「かくも幸福な絵画」 そしてエルンスト「三本の糸杉」。ブローネルは変容しながら登場する。彼は1948年に除名されるも1959年再加入している。


シュルレアリスムの作家達のサインはみな繊細までに小さい。大胆なのはポロックくらいか。展示プレートは生没年と生没地まで丁寧に描く。それは新たな作家の人生を想像させる。
各章での展示はまるで辞典のように、引用まで記し、定義づけをしてから進む。フランス語の響きに日本語訳がうまく載っているのは、名訳揃いだから。
音声ガイドは画像もあって、それほど充実していないが、人間相関図が面白い。年代ごとにグループが変貌していき、フランスからアメリカへ亡命する画家の様子もわかる。
最後のミュージアムシュップでは、ポストカードが充実し、特製書棚に関連する書物が並ぶ。
こちらまで余韻を残すように仕組まれている。私が今まで知っている「シュルレアリスム」とは何か違う。そう思ったので『シュルレアリスムとは何か』巖谷國士 を購入。!『シュルレアリスム』って「シュール」や「シェー」という意味合いの日本語みたく曲解されている?もしくは「ひぇー!やっちゃった」(by LISA)とか。
そして澁澤龍彦が愛するシュルレアリスムの幻想美術的な面しか知らなかったけど、実はアンドレ・マッソンやヴィクトル・ブローネルを知る。出典が緻密なのがフランス的。黒を基調に、アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言」が鎮座する空間。 1924年シュルレアリスム宣言を起草し、シュルレアリスム運動の中心人物であったフランスの詩人、アンドレ・ブルトンブルトンを中心にした詩と芸術の運動。
絵だけでなく生き方、考え方にも影響を与えた。夢や無意識の世界も大事にした。それが夢や無意識が幻想世界となる点ばかりが強調されたシュルレアリスム感がある。そういう意味で新たな視点を得る展覧会だった。実は「シュルレアリスム」のほんの一側面でしかなかったようだ。
リサとガスパール宣伝や「超現実写真(シュルプリ)」や「シュールな私」特集は「シュルレアリスム」を正しくは伝えていない。けれども認知する仕掛けなのかも。
シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫)