「日本画」の前衛 1938-1949@東京国立近代美術館

日本画」の前衛 1938-1949@東京国立近代美術館

2011年1月8日(土)〜2月13日(日)
企画の中心となった京都国立美術館から東京に上陸した。
次は、広島県立美術館へ巡回する予定。
2010年9月3日(金)〜10月17日(日) 京都国立近代美術館(終了) 
2011年2月22日(火)〜3月27日(日) 広島県立美術館 

 「日本画の前衛」を[Avant-garde in Nihonga]と表現した展覧会
タイトルから敬遠していたけど、驚く会場で2時間もずっと見入ってしまった。

ニッポンVS美術―近代日本画と現代美術:大観・栖鳳から村上隆まで
京都国立近代美術館所蔵名品集 日本画

紹介によると
社会的にも激動の時期である1930年代後半期、「日本画」の世界において、伝統的美意識による創造に決別し、新たな表現を目指す活動が起こりました。舞台となったのは1938年4月に結成された歴程美術協会です。彼ら「日本画家」たちは、抽象やシュルレアリスムは言うまでもなく、バウハウスの造形理論をも取り込みつつ「日本画」を制作し、その展覧会場にはフォトグラムや工芸、盛花までもが並びました。
 本展覧会は、この歴程美術協会を起点とした「日本画」における果敢な挑戦を、日本で初めて具体化された「前衛」意識と位置づけ、多角的に検証するものです。本展では、これらの「日本画家」たちが交流を深めた洋画家たちとの影響関係も探ります。また、戦争の拡大とともに未完の前衛と化した様相にも触れながら、歴程美術協会の戦後における再興とも言うべきパンリアルの誕生までを扱います。
バウハウスシュルレアリスムキュビズムなど海外で起こる絵画の流れを汲みながら、それを日本画材で取り組んだこの年代は前衛集団「歴程美術協会」が登場した1938年とから「パンリアル」が戦後登場した1949年を指す。


第1章 「日本画」前衛の登場
 山崎隆が1938年「象」を描いた。
バウハウスに影響を受けて、山岡良文が「シュパヌンク」1938年に描いた。(spannung=緊張)それは紙に日本画材で描く抽象画。
それが袋戸棚小襖にも描かれる。

第2章  前衛集団「歴程美術協会」の軌跡
 1938年そうして「歴程美術協会試作展」神田東京堂ギャラリーで開催される。その芳名録にみられる多士済々。このような展覧会を当時の図録から、実際に並べて展示する作業というのは戦前戦後という混乱した時代ゆえ困難であったろう。
丸山位里、船田玉樹決して伝統的な手法を手放したのではなく、新たな技法を追求して新しい日本画の表現を見出そうと模索した印象がある。
寄せ書きは面白い。あの戦時下に芸術家が寄り添い生き抜いた証。
抽象やシュルレアリスムバウハウスなどヨーロッパ・アヴァンギャルドからの影響だけでなく、ジャンルを超えた自由な表現が登場。ここではあの会場を再現するように、芳名録と共に作品が並ぶ。

第3章「洋画」との交錯、「日本画と洋画」のはざまに
 日本画と洋画は違うものだろか。画材が違うだけで、海外から学んだり交流するのに垣根はない、そういう楽しい章だ。靉光、岩崎英遠『都無じ』(つむじ)その造形には引き込まれる。
この章では中心に山岡良文『作品(44)』を据えて、洋画家たちとの交流を見ることが出来る。ここでは、岩橋英遠『都無じ』(つむじ)や『土』に非常に惹かれる。こんな絵は見たことない!吉岡堅二『馬』がピカソゲルニカに影響を受けているが、彼なりの解釈を元に生きている。

第4章 戦禍の記憶
 山崎隆の屏風がずらりと並ぶ空間は圧巻であった。こういう壮大な場を目にすると、戦争という人間の営為が愚かに見えるよう。全て京都国立近代美術館の屏風がここに居並ぶ佇まいは圧倒される物語。彼の地での体験をこのスケールで描く事が、空が真っ白に塗り重ねている様に、ふと、杉本博司「Theater」シリーズの舞台を彷彿した。様々な人間の営為を見つめた大地。

第5章「戦後の再生、パンリアル結成への道」となる。
 山崎隆の存在は第1章の『象』(1938)から第3章の『神話』(1940)へ辿り、さらに『ダイアナの森』(1946)、そして『海兵』(1948)へと至る。それが、この展覧会を繋げる道程のように思える。
三上誠、下村良之助 そうして戦後の日本画は今日に至るまで、画材や題材に制約されることなく活き活きと表現が拡がる道に続くよう。
 日本画というと、伝統的な画題を用いて誰にでも愛される花鳥風月を描くのが普通であったろう。実際に日本画壇で名を連ね知っていた日本画家たちはどうであった。この時代、この日本画は「前衛」であったのか。「アヴァンギャルド」や「前衛」という表現が適切かわからないが、バウハウスシュルレアリスムキュビズムを岩絵の具と紙で表現しようとした作品群は、心惹かれる。
 展覧会のタイトルで判断してはいけない。食わず嫌いはいけない。「歴程」がどれだけ魅力か、そのネーミングの意味を思うと、反省する。今まで知らなかった画家たちを、こういった企画展で知るのは、大変に有意義だ。