試みの茶事 北の丸大茶会「現代工芸への視点ー茶事をめぐって」

《試みの茶事 − 北の丸大茶会》
日時 / 2010年9月11日(土)12日(日)
会場 / 東京国立近代美術館 工芸館 2階

 茶事 上      裏千家茶道教科 点前編(12)
茶事・茶会の会話集―亭主の立場 客の立場


 いままで京都、美濃多治見、京都大山崎 そして飛び火して北海道(EZO)で開催された「試みの茶事」空前絶後、多分こんな大掛かりな事ももう出来ないと言われた国立美術館での大茶会の現場に参加した。
 当時東京国立近代美術館学芸課長でいらした金子賢治氏(現在は茨城県陶芸美術館館長).が面白いと取り組まれたのが一年前だそう。この2日間で240人。その大勢をもてなすスケジュールや場所など本当に凄い。
 
 この展覧会は9月15日から始まる企画展。その間を、仮の茶席を設けてもてなしを行う。薄茶席(2畳) 陶芸家たちが、亭主となり、道具をつくり、コーディネートし点前するおもしろイベントが、今回、東京国立近代美術館工芸館の秋展のプレイベント『試みの茶事 北の丸大茶会』として催された。

 最初に「口切」から始まる。陶芸作家自ら全国の茶園で5月に茶葉を摘み乾燥させる。
壇上には、加藤委さん、片山亜紀さん、村田森さんの3名が自分で茶葉を入れた自作の茶入れで披露された。そして石臼で挽いて細かな茶を作る。
 今回は左回りに石臼を挽いて、少しだけ茶が出てくるのを実際見せてもらった。
 
 声をかけると今回の主催に関わった作家さんに当たるという高確率。様々な作家が参加されていたよう。おもてなしをし、かつもてなされるという相互な関係。
 最初に声かけた方は、立役者 奥村博美氏であったようだ。(私は身の程知らずという奴かもしれない。随分すごい人びとがいたことを帰宅して調べているうちに、どんどん驚くばかり)
 今回は、茶壺口切のデモンストレーションをはじめ、点心席、濃茶席2席、薄茶席6席という構成。濃茶席はもちろんのこと点心席では、近人気若手作家6人が席主となって、自作のうつわを中心にして道具を組み、点前をする!のだ。当日は、有名な現代美術家らがお客さまとしてやってくるらしいとも。
 点心席は決まっていて席につく。各作家さんが酒器や杯、器、皿を創作され、実際に使って料理を頂くというトンでもない試み。ここは新宿御苑蕎麦屋と料理。日本酒を祝杯で頂戴する「天国の味」酒器には三方向口があり注ぐのに苦心していたよう。
 お隣にいらしたのは金理有さん。聞けば聞くほど恐ろしく凄い経歴の人であった。あのBASARA展で見たあの金属感ある傾奇のオブジェは彼の作品。後ろの席で酒器として出され見せてもらうと手ごねに金属釉。持つと軽く感じるが非常に熱い。「へうげもの」でブレイクしたけれど、本当にこれからどんどん注目されるかも。ヘビーなメタルのネックレスも自作の陶器作品と聞いて驚いた。
 
 そして注目の薄茶席である。6席全て廻る事は適わなかったので印象のみ。2畳の制約下でどこも亭主が趣向を凝らして面白すぎる空間。
村田森さんは茶席の上を懐かしい電気傘の照明が照らし、小さき器が迎えてくれる。ほっこりした空間(村田森(しん)のお父様は日本画家 村田茂樹氏と教えてもらう)
 新里明士さんの茶席は黒で囲んだ中、両側に自身の作品が展示されている。光器に氷水を張り光に照らされて揺らぎを生じている。器は黒か、白釉薬を垂らた赤肌。菓子盆は 村田佳彦さんの「砂の器」砂に漆をかけて固まった部分のみを取り出す贅沢な製法。大変脆く危ういが、漆によって留まる砂のみによって出来た器だという。ちょうどお隣にいらして話を伺う。新里さんとギャラリー展覧会で一緒になり、以来器の蓋を任されているそう。展覧会の器も曲面ある器に合わせて乾漆で丁寧に作られたそう、いわば合作。こういう場合名前が出ないのは惜しいと思う。山型の取っ手が良い。
 植葉香澄さんの茶席は、ご自身の艶やかな色絵陶(スカルと魚骨がユニーク)、奈良美智絵付けの器もあり、頂く。奈良美智さんが描いた空中茶会のイメージで、富士山の上で雲は浮かび、額装の絵も愛らしい。亭主が「ぽ」と書を入れたのも味わい。
 福本双紅さんの茶席は四方を水を張った白磁器で結界を張るみたい(2007年INAX)薄く繊細で多彩な器に、さまざまな茶葉が並ぶ。一保堂さん、各作家さんの茶葉。真夜中に石臼を挽き作られたとか。(ご両親は福本繁樹、潮子夫妻で染色の著名作家である。福本さんの器の繊細な色合いに感じられるセンス)
内田鋼一さん
加藤委さんは青白磁の器が特徴的で、今回口切でユニークな器を作られた。

 最後の濃茶席は二席あり、それぞれ現代アートアヴァンギャルドな設え。堤さんの真赤な伊勢海老の器に濃厚な緑の抹茶。黒字に金の斜線「柳原睦夫先生だ」と金理有さんが当てた。
茶道具としての器だけでなく、アート作品としての器の登場。実際使うという信じられない
 今回は撮影禁止なので、どれほど素晴らしい場であったか、どんなに凄い人が揃っていたか、どれほど面白い席であったか写真では紹介出来ないが、まるで竜宮城のように決して戻れない夢のような時と場であった。
願わくば、緩やかに続く事を願うばかり。東京国立近代美術館が今回の試みから、若手作家の発表の場が続くと良いと願う。「へうげもの」が若手陶芸作家の活躍の場を大きく広げたように、多くの作家が羽ばたけるように。
 今回佐藤宗陽(京都裏千家)のお言葉で、茶道具が古道具ではなく、新しい作品が増えたほうが楽しいでしょう、と若手作家に対する心優しさが印象的だった。

事の発端のエピソードを発見。以下引用
「試みの茶事」という試みがあります。4年前、「いふき」で陶芸家たちと飲んでいるときに生まれた話。茶碗を作っているものの、はたしてそれが「茶碗」と呼んでいいものかよくわからないという彼らの素朴な疑問から、じゃあ、自分たちで茶事をやってみようということでスタート。その場に居合わせたのが、奥村博美さんや加藤委さんをはじめ、京都と多治見の作家さんたちでしたので、1年目は京都の某邸宅、2年目は多治見の修道院、3年目は京都の聴竹居と、交互に開催してきました。 4年目の今年は、舞台を東京に移します。企画展にタイアップして、会場は東京国立近代美術館の工芸館。若手作家のみなさんが、それぞれに趣向をこらして薄茶席を担当。濃茶席は、近美とギャラリー器館さんがタッグを組んでしつらえるみたい。
へうげもの(1) (モーニング KC)

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展覧会
現代工芸への視点ー茶事をめぐって
日時  2010年9月15日(水)〜11月23日(火)
場所  東京国立近代美術館 工芸館
    千代田区北の丸公園1-1
時間  10時〜17時(入館は16時30分まで)
休館日 月曜日(ただし9月20日、10月11日は開館)。9月21日(火)、10月12日(火)
入館料 一般500円
※11月3日(水・祝)は無料観覧日。
出品作家
池田巌、伊勢恕W晃一朗、市野雅彦、今泉毅、内田鋼一、江田償n、小川待子、隠崎隆一、金重有邦、川瀬忍須田悦弘、長野烈、新里明士、畠山耕治、林恭助、林邦佳、福島善三、福本潮子、福本双紅、前田昭博、村瀬治兵衛、山田和、樂吉左衞門、若尾経、和田的、渡邊明、以上26名(五十音順)