田中一村 新たなる全貌@千葉市美術館

田中一村 新たなる全貌

8月21日〜9月26日 千葉市美術館
10月8日〜11月7日 鹿児島県立美術館
11月14日〜12月14日 奄美田中一村記念美術館
(巡回予定)

アダンの画帖 中村淳夫

アダンの画帖田中一村伝

アダンの画帖田中一村伝

神を描いた男・田中一村 (中公文庫)
もっと知りたい田中一村―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

 奄美での代表的な作品しか知らなかったので、この全貌を始めて知る。
時代順に丁寧に配置される。天井絵や襖絵なども実際に配置される。
その端正な顔で自信に満ちたセルフ写真から彼の作品に対する高い自負心を感じる。
生涯常に新たな表現方法を模索した姿からは、奄美時代だけを見て評価してはならないと感じた。
 奄美時代は「孤高の画家」「困苦に生きた」という先行イメージがあるが、奄美の自然を活き活きと描く姿からはむしろ幸福な人生にも思えた。奄美の人々と交流し生きた証が数多く送った色紙から感じられる。中央画壇の軋轢とは離れて生きたこと

奄美の画家と少女」『南極のペンギン』に収載(高倉健
南極のペンギン (集英社文庫)
「南の島のたくましい命にあふれていて、自分の命をけずって、絵の具にとかしたような絵だ」

8月22日講演会があった。以前そごう美術館での展覧会では3時間ほど立ち尽くしたという熱狂的ファンと一緒に。
小林忠館長
河野エリ(栃木県教育委員会学芸推進担当学芸員
末吉守人(美術史家・元石川県立美術館学芸主幹)
前村卓巨(鹿児島県立高等学校教諭・前田中一村美術館学芸専門員)
6年間単身で美術館勤務。実際に田中一村の住まいや木茶峠を歩き身をもって体験。奄美の森に入ると甘い独特の香りがするという。(201)フワズイモとソテツ クワズイモの生態の一生と、ソテツの雌花雄花、立岩と絵から読み込む「奄美曼荼羅」と評していた。解説も秀逸。 
松尾知子(千葉市美術館学芸員
田中一村に対する評価は「沸点の100℃からマイナス20度の氷の世界」という感じ。3年前一村生誕100年の節目に調査見直しを始め各地の専門家と組んできた。下絵も含め600点以上。
山西健夫(鹿児島県立美術館学芸係長)
手紙や添え状から読み解くことは重要だが文章が一人歩きしないよう気をつけている。例えば「色紙を書くのは十五年ぶりの事」とあるが、実際は数多く描いている。彼の文章は事実ではなくても彼が理想とするべき姿勢が感じられる。自負心が高かったのでは。

第1章 東京時代

1-1 神童「米邨」
木彫師の父稲村の名から「米邨」と。中学在学より職業画人として活躍する。
1-2 東京美術学校退学後の活躍
入学2ヶ月で退学後、上海画壇の様式を追随した作品。画面充満する描き込みと書。
1-3 昭和初期の新展開
(38)水辺にめだかと枯蓮と蕗の薹
23歳で支援者と絶縁。先とガラリと大変換した画風へ。常に模倣し学び続け作風は変化していく。

第2章 千葉時代
2-1 千葉へ
2-2 千葉寺風景を描く
千葉の農村風景を丁寧に描く。(49)千葉寺風景荷車と農夫 今年発見されたという作品。麻紙に仮留の状態で出品される珍しい。
(48)秋日村路 農村風景と軍鶏の姿。季節も場所も特定できそうな緻密な描き込み。
2-3 「一村」への改号
「山重水複疑無路 柳暗花明又一村」陸游唐詩より
2-4 公募展への挑戦
(141)白い花 青龍展入選作。しかし最も自信作であった(143)秋晴が落選。次第に独自の画風を追求することに。
2-5 襖絵の仕事
今回復元し両方から鑑賞できる。(131)菊花図は余白も個性的な菊も美しい。元は襖絵を屏風仕立てに。(132)燕子花 たらし込みが魅力的な輝きを見せる
2-6 やわらぎの郷聖徳太子殿の天井制作
(133)杉板に厚く色を重て意匠化した草花を描く。参考出品「花鳥写真図鑑」と同じ構図の花が多く見つかる。比べてみると面白い。 
2-7 四国・九州の旅
風景画と写真を並べて展示。(158)足摺狂濤 波頭など細やかな描写。(162)鬼ヶ崎黎明 岩から覗く海など構図が斬新。この頃花を手間にクローズアップして描く構図が多くなる。
2-8 千葉との別れ

第3章 奄美時代
3-1 奄美
和光園仮住まいから島の人々との交流が数多い。
3-2 スケッチについて
3-3 奄美での作品
(204)(205)と未完だがその制作過程が見られるのは貴重。

(203)海老と熱帯魚 これは驚くべき美しき構図と色彩。絹に岩絵の具か疑う位!しっかり厚く塗り上げる。古稀に。

遺品の岩絵の具を入れた缶は千葉銘菓(八街龍泉堂本家)だった。
愛用のカメラはOLYMPUS FLEX 二眼レフ。その真四角の写真がずらりと並ぶ写真帖から彼の構図の美学を感じる。

 スケッチは彼の思索を続けた軌跡。そのスケッチ残片も一枚一枚、丁寧に調査をして整理した成果があり、実際の作品の傍にその思索の過程が展示されている。
 軍鶏(しゃも)図が最高にカッコイイ。その目つきといい、まさに田中一村そのもの。自信ある風格が重なる。

 この250点以上にも上る田中一村 新たな全貌は展示にも力が入っている。しっかり体力を得て田中一村の人生を追体験するようなぎっしり充実した内容だ
 充実した図録は、落款、色紙、田中一村年表は生前のみならず、没後の評価についても丁寧に記載をしている。 
 千葉市美術館の松尾学芸員の3年前ゼロからスタートしてここまで徹底した内容に高めた努力ぶりには頭が下がる。ここから数多くの研究が拡がるだろう。