若冲 アナザーワールド(後期)@千葉市美術館

ユリイカ2009年11月号 特集=若冲 〈動植綵絵〉・モザイク画・〈象と鯨図屏風〉…永遠に新しい絵師のすべて
(《象と鯨図屏風》発見で特集あり)
若冲 ――広がり続ける宇宙 Kadokawa Art Selection (角川文庫)

 千葉まで来た甲斐があり。静岡県立美術館の展示と少し違う手法だったのと、展示替ゆえで初見の作品もあり、こちら千葉市美術館も充実できた。
大きく四章立て
第一章 若冲前史
第二章 初期作 模索の時代
第三章 着色画と水墨画
第四章 晩年期 多様なる展開

 こちらは解説が面白くて、さすが千葉市美術館らしい笑えるコメント。
 第一章は先駆者の作品と似ているところ探し。「似ている?」と聞かれたら比べたくなる面白い視点。

 第二章は《17 花卉双鶴図》や《30 月夜白梅図》など若冲ワールドの片鱗が芽を出しているところ。筆を自由自在に振るい、墨の濃淡など大胆に描く一方、繊細な筋目描きなど見所満載。その絵の多くには賛が入る。若冲が敬愛した《31売茶翁》肖像画のご本人月海元昭から賛をもらっている。相国寺の大典禅師・梅荘顕常、禅僧の無染浄善からの賛も多い。
《53 双鶴図・霊亀図》など亀甲模様が端正な六角形。《73 蜃気楼》大きな蛤が華やかな都を夢見ているのも愛らしい印象を受ける
 
 第三章は個人的に充実して好きな章。《82 牡丹・百合図》《83 百合図》など細筆の百合にレースのような白彩色。墨のみの百合と、胡粉彩色の百合 どちらも香しい。
その繊細な筆ぶりは《91 旭日松鶴図》で若冲ワールドへの誘い。《95 松に鸚鵡図》《96 鸚鵡図》毛並みの描き込み。
そして噂に聞きし《108 象と鯨図屏風》随分とデフォルメしたような白象で、耳も牙も全くもって「尾も白い」。鯨は墨の垂らし込み。スケールの大きな画題でユニークな作品。その隣にある松本奉時の「倣斗米翁(若冲に倣う)」で描いた白象も鯨もちっとも似てないけど、交流の深さを感じる。
 《111 樹花鳥獣図屏風》は静岡でも見たけど、じっくり見れば見るほど深い楽しさ。鳥類は大抵くりくりした瞳だが、獣類の眼はそれぞれが個性的。白象は不謹慎ながらいつもパタリロの眼を思い出す。牙が真っ直ぐ鼻の上で繋がるような描き方も意外な発見だった。升目描きを楽しみ、その升目一つ一つに利かせ色をつけて、立体的でタイルのような印象を受ける。水墨と極彩色と それぞれの白象の魅力を味わう。

 第四章は 若冲ならではの版画の魅力。以前国際文通週間切手になったこともある。
 《130 山村積雪図》《132 岩石人家図》手前に背景を持ってくる面白い構図。《138 蓮池図》大阪・西福寺の6幅。蓮の一生を描く循環。この章は彼の超絶技巧の真骨頂ゆえどの図屏風も筆遣いなど興味深い。《143 群鶏図押絵貼屏風》《157 蔬菜図押絵貼屏風》リズムよく踊っているのではないか、と思うほど活き活きしている野菜。
《169亀図》賛入り《170霊亀図》 全く同じ構図。余程好きなのか亀。
 この満腹な展覧会の後にも「江戸みやげ」展示で千葉市美術館ならではの魅力ある江戸浮世絵や版本が並ぶ。江戸と上方 堪能した。ご馳走様。