長谷川潾二郎展@平塚市美術館

洲之内徹が盗んでも自分のものにしたかった絵
2010年
4月17日(土)〜6月13日(日) 平塚市美術館-http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/2010202.htm
7月1日(木)〜8月15日(日)下関市立美術館
8月28日(土)〜10月17日(日)北海道立函館美術館
2010年10月23日(土)〜12月23日(木・祝)宮城県美術館
 
 長谷川潾二郎(はせがわりんじろう1904-88)
 セザンヌを思わせるような、それぞれが一番美しい時を留める色と形と配置。果物を包む込むように背景の静かな色。
 パネルで長谷川潾二郎の日記から言葉を上手く引き出して、絵と呼応するように配置している。
 14歳の頃がまさに絵の具に自然色を込めたような活気を感じる。しかし、函館風景の水色の静謐な風景画に変わっていく。《兎》(16)などは、愛らしい毛並みを丁寧微細に描く。
 《窓とかまきり》(14)窓枠に蟷螂を配する絵。額縁が虫喰文様なのが気になった。これら26歳、1930年の作品とは。
フランス留学をして学びそこで見出すのが、芭蕉・蕪村の俳句による日本の世界観。日本食は恋しくなかったが、日本の風景に立ち返るきっかけになった時期のよう。 
《時計のある門(東京麻布天文台)》(35)はお気に入りの場所だったそう。フランス留学から帰国後書き上げた。
 《バラ》(42)を見て洲之内徹が「この世のものとは思えない」と評した事を、長谷川は「視点がこの世のものとは思えない美に導いている事実、目の前の現実がこの世のものと思えない程に輝くからこそ描くのだ、と応える。目の前に光が現れたら、《静物》(79)器に映り込む光さえも美しい瞬間を丁寧に描く。《リンゴ》(76)青りんごと藍色の器がもっとも美しい調和となるように、背景をシンプルに描く。グラスの表現、藍色の布、それらが リンゴや桃といった果物を愛おしく包み込むようだ。
 《猫》(75) その名は「タロー」。「タローの履歴書」に経歴に深い愛情が感じられる。美術界でもっとも著名な猫。実物を前にしないと描かなかった潾二郎が6年の歳月をかけ仕上げた逸品である。画家は愛猫がそのポーズをとってくれる時を待ち、何年もかけて描いた。そしてそのひげを描き終える前に「タロー」は老い、永眠した。
常に最良で最上級の姿を求め続ける忍耐力。何年もかけ、納得いくまで観察しないと描かない寡作、孤高ともいえる制作態度。
 江戸川乱歩にも称賛された探偵小説作家としての一面、その鋭い観察力が絵画で表現すると、こんなミステリーになるのだろうか。
《アイスクリーム》(118)や《キャラメル》(113)の造形美を描く。また深き緑の木々を葉一枚一枚に至るまで丁寧に描きこむ。
花びらひとつずつ丁寧に描き、その背景を丁寧に色を変えて塗り重ねる。
公立美術館として初めての回顧展と巡回展。雑誌、テレビ等で「幻の画家」として賞賛しているけれども、画家はひたすら自分の納得行くまで、丁寧な絵を仕上げていただけではないか。
 タローはフランソワ=クープランやサティがお好きとは、すっかり長谷川氏の分身ではないか。