川瀬巴水と吉田博 日本の風景 世界の風景@浮世絵美術館

2009年7月4日(土)〜7月26日(日)
休館日:7月6日(月)・13日(月)・21日(火)
浮世絵美術館 ららぽーと豊洲

 平木コレクションを見せるため開館した この部屋。ららぽーと豊洲の賑わう一角にある。賑やかな店内から離れての一室。あまりに小ささにびっくり。でも内容の濃さにもっとびっくり。
しかし二人の生涯と作品群にまったく予想もしない収穫があった展覧会。この一室を500円を高いと思うか安いと思うか。
 入ってすぐの映像は、静かな鑑賞を楽しむよう無声で静かに映像を流しているが、版画の摺り工程まで見せてくれる。それぞれの図録も見ることが出来る。

◆ 川瀬巴水
川瀬巴水木版画集
雪、雨 名前のごとく「水」のさまざまな変化を見事に表現する
一見すると白い雪もさまざまな陰影をなし、黒い闇の風景も丁寧に描いている。

◇暮れ行く古川堤
◇但馬城崎(旅みやげ 第三集) …雨降りしきる闇
◇飛騨中山七里(旅みやげ 第三集) …降り積む雪のおもさを感じる 
御茶ノ水東京二十景) …吹雪く雪に灯る明かり
桜田門東京二十景) …水溜りの表現が見事
◇大宮見沼川 …夜の闇に飛び交う蛍
◇井の頭の桜の夜 …夜に浮かぶ桜も幾重にも重なる色あい
◇奈良春日大社(日本風景集 関西編) …青丹よし奈良の色、水溜りに映る景色 
高野山鐘楼(日本風景集 関西編) … 
◇讃州善通寺(日本風景集 関西編)
彦根城の残雪(東海道風景選集) …雪の表情
田子の浦の夕 …名品ゆえよく出会う作品、紅に染め上げた富士は見事
阿蘇の夕(外輪) …前景に深き緑、青い山脈、紅雲の色あいのよさ
十和田湖 版木一式 …この版木を用いて復刻作品が販売されていた

Kawase Hasui: The Complete Woodblock Prints
Kawase Hasui: The Complete Woodblock Prints

Visions Of Japan: Kawase Hasui's Masterpieces
Visions Of Japan: Kawase Hasui's Masterpieces

Kiyosumi Park, Tokyo Journal
Kiyosumi Park, Tokyo Journal

◆吉田博
吉田博 全木版画集
岩や彫刻の表情、そして何より山が美しい。同じ構図で昼と夜を表現するのは、摺師との力もあるが、世界の色彩を見事に再現している。インドの風景は鮮やかな色彩に満ち、愛らしい人物群像も良い。

◇ホノルル水族館 …これは構図も仕上がりも斬新だが
◇グランドキャニオン …あの独特の風景を浮世絵に再現
ユングフラウ山 …山を描かせたら見事
ヴェニスの運河 …スケッチと比較するのも楽しい。水面がやはり味わい
◇アゼンスの古跡 …世界の風景も浮世絵に再現すると
◇カンチェンジャルガ …彼方の山並みの神々しき姿
◇タジマハルの庭(昼) …白亜が水面に映る姿と比較する
◇タジマハルの庭(夜)
◇サンチの門 …門の複雑な彫刻を版木を幾つも重ねて生み出している
◇小姑山 …雲や水面の表情が、幾重にも重ねた版木のグラデーションで活きる

 川瀬巴水の日本の風景、吉田博の世界の風景を展示。美しく懐かしい巴水の作品と雄大な風景を描いた吉田の作品は、浮世絵から受け継がれた木版画の技術があってこそ生まれたもの。
 明治からの新技術により廃れつつあった浮世絵の木版多色摺り技法を生かした木版画技術を継承しようと絵師、彫師、摺師、版元が共同して版画を作り出す「新版画運動」が興る。版元 渡辺庄三郎氏によって、絵師、彫師、摺師との三者分業とした。それぞれの熟練の技を遺憾なく発揮することで、完成度の高い木版画を作ることをめざした。

 浮世絵形態の絵師・彫師・摺師の三者分業型であるならば、絵師のみならず、彫師・摺師もそれぞれ名を歴史に刻み刷り込む事が出来たら良かったのに。素晴らしい職人技だと思う。西洋絵画的な緻密な遠近法と大胆な省略の美。幾度と重ねるぼかし摺りによるグラデーション。雲、岩、雨、雪、水溜りという自然現象を版木にいかに再現するか。二人に影響を与えた渡邊庄三郎そしてチャールズ・W.バートレット(Charles W. Bartlett)が気になる。いつか彼らも含めた展覧会を見たいものだ。


◆チャールズ・W.バートレット(Charles W. Bartlett
バートレットはイギリスを拠点とし、ヨーロッパやアジアを旅行し、その各地の風景や人物を水彩や油彩で描いた。銅版、木版にも長け、同じような主題の版画を制作した。日本には東洋旅行の途中で1915年に立ち寄り、1917年まで滞在。新版画運動を始めた版元の渡辺庄三郎と知り合い、1916年にインドと日本の風景木版画のシリーズを版行した。歌川広重小林清親等の風景画に影響を受けながらも、浮世絵の平面的な色面構成に西洋写実主義的なディテールを加味した独特の様式で、川瀬巴水や吉田博など木版画の新しい世代に影響を与えた。日本を去った後はハワイに永住した。

川瀬巴水と吉田博を見ることが出来る美術館
山本美術館(長崎)

東京国立近代美術館

兵庫県立美術館

南アルプス市立春仙美術館

私はオペラシティアートギャラリーで見て二人を知った。

特集 川瀬巴水ナショナルジオグラフィック日本版」2006年5月号


そして現在も続くこの老舗。彼らの作品集も扱う。
渡邊木版美術画舗渡邊章一郎氏(株式会社 渡邊木版美術画舗 代表取締役