山口伊太郎遺作 源氏物語錦織絵巻展@大倉集古館

 錦織絵巻で読む源氏物語とは、なんとも優雅であろう。立体的な織で人物の衣装のみならず、舞台が立ち上がり、典雅な世界が活き活きと再現される。
織ひとすじ 千年の技―西陣織兄弟、二百歳の志

 西陣の錦織で源氏物語を再現しようと、山口伊太郎は70歳近くで思い立ち、完成までの35年余の長きにわたり、その才能を余すことなく注ぎ込んだ作品。
 その細やかな方眼図を見ると、その情熱をかけた生涯が全て織り込まれている大作となっている。

 丹羽さんの下絵に基きながらも自由に画面を翻案して、織文様や表現を多彩に実験を試みて製作している。どれも一級の完成品であるが、常に創意工夫を忘れない。
 徹底した職人魂である。
 特に御簾の間から覗く女房たちの表情や衣装、欄干に架ける衣の透かし織など、驚くばかりの精密ぶりで、さすが日本が誇る西陣織と思う。
 
 初期の作品では、エジプトを模写。衣紋をプラチナ箔で表現するなど、銀より永遠に輝く艶など研究を重ねている。

 今回も絵巻の絵の部分のみならず、金箔散らしの料紙までも織で再現しようと試みる。その出来栄えに途方もない研究の集中力。書体もしっかり再現されており、その美しさを何度も味わう。
  
 大倉集古館は良い作家を支援して、こうして公開の場を作られる。
特に裏側を鏡を置いて確認できる展示方法は素晴らしい工夫であった。裏を見ても隙がない美しさである。
 日本の美意識をこう高め残る仕事に出会えた事を感謝したい。

 フランスギメ東洋美術館に収蔵されているそう。
「山口伊太郎遺作展実行委員会」