内藤礼 Color Beginning@ギャラリー小柳

−2009年05月16日
11:00から19:00まで
月曜・日曜・祝祭日休館
中央区銀座1-7-5 小柳ビル8F)

 内藤礼の作品は写真でしか見たことがなかったが、これは実際目の前にして体験しないとわかり難いと思う。
入ってすぐに薄紅色の布、そして大小の淡いキャンバスが見える。
そして足元に電熱器、シンクが見える。 

 単なる淡いピンク色の画面ではないか、と見つめ続けていたら、その画面から煙や湯気が立ち上り、空気がうごめいている様に見えた。
これは私の幻覚だろうか。私だけだったのだろうか。まるで何かが生まれてくるような生命力を感じた。

 電熱器が発する熱量で揺らぎ舞う糸、水流を受けてガラスのビーカーの中でくるると舞う貝紫染めされたオーガンジーの布。
それらがまるで生命を得た精霊のようにも見える。 そう意識させたのであろうか。
 白いキャンヴァス上に、淡いピンクを塗り重ねてゆく。「あわい」 つまり存在の境界、はざまを。淡い色が、実は非常に緻密な工程を経て、色が生まれる瞬間か。色の現われ。・・・
 ギャラリーの静謐な空間で作品の前にじっと向き合う、すると寄り添ううちにすうっと生まれ出づる何かを感じた。

 作品リストを見ると「貝紫染」が使われているとのこと。
帰ってから調べると、過去の個展「精霊」など愛知県佐久島で貝紫染めの作品を制作されたとか。
貝紫染めというのは古代から日本に伝わる技法。彼女のインタビューの中での一節。
「貝紫染めの貝を殺して採った毒を使って染めたものが色として生き始めることを、昔のひとは 精霊、と呼んだのではないか」と。

TABイベントより引用
作家はここ数年、「母型」を主題に、空間作品(インスタレーション)、彫刻、写真による作品を制作してきました。2005年のギャラリー小柳での個展以来、ギャラリーでは4年ぶりの発表となる本展は、同じ主題を元に、「色彩」を通して探求した新作のペインティングと、水や熱による「生気(アニマ)」を通して探求した彫刻作品を中心に構成されます。

中でも、2006年に始まった新シリーズのペインティング「無題」は、今回が初めての発表となります。これは、紙に赤の色鉛筆で描いた"namenlos/Licht"(1993年から続いているドローイングシリーズ)の流れにありながら、そこに「母型」という新たな認識と、「色彩」の新たな発見があることで始まったシリーズです。

本個展のタイトル「color beginning」とは、「はじまりつつある色彩」、「生まれつつある色彩」を意味し、1819年のターナーの小さな水彩画が由来となっています。それは、「母型」における「色彩」のことであり、また同時に、作家にとって「色彩」の仕事がはじまったことを意味します。作家にとって、「母型」と「色彩」は、つねに同時に「はじまりつつあり、生まれつつある」ひとつのものであります。生まれる前やこの世を去った後、そして無意識といった、生の外でありながら、生を貫き、生に偏在する、その自由で純粋な連続性を「母型」と作家は呼んでいます。

繊細で神秘的な内なる体験をもたらしてきた内藤の作品が、今回どのようなかたちでたち現れてくるのか、是非この機会にご高覧頂ければ幸いに存じます。

世界によってみられた夢 (ちくま文庫)

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地上にひとつの場所を