稲越功一 写真展「芭蕉景」@ライカ銀座店サロン

2009年1月9日[金]〜4月12日[日]
11:00〜19:00[月曜休/入場無料]
イカ銀座店サロン
東京都中央区銀座6-4-1 TEL.03-6215-7070

 銀座ライカは宝石店のように、キラキラと魅力を秘めたライカが陳列されている。その二階にあるサロン。

稲越功一さんがお亡くなりになった。

 飛騨高山の出身だと知ったのは
六本木ヒルズの展望台飛騨高山写真展「わたしの好きな高山
岐阜県高山北小学校の5・6年生が、夏休みに「私の好きな高山」と題して、日常の様子を写したもの。高山市出身の写真家・稲越功一氏を招いて開いたコンテストでグランプリに選ばれた作品が展示されている。
『高山市民ら 写真家・稲越さん悼む』

奥の細道」を追体験し日本の風景を撮影し写真
その中のモノクローム写真が12点ほど。

芭蕉の言葉―『おくのほそ道』をたどる

芭蕉の言葉―『おくのほそ道』をたどる

 華厳の滝
 月山(出羽三山)の山並みの合間には稲越さんが喩えたように 長谷川等伯「松林図」の余白の美。


「私は不思議な夢を見た。神さまから“貴方の生命はあと三年ですよ“と告知される。 あと三年。まだまだあれも撮らねば、あそこにも行かなければと思っていた矢先である。考えてみればこの夢により私はいままで以上に自分をとりまくすべての物事に感謝が出来るだろうし、一日一日を悔いのないように生きるだろうから、これは私へのひとつの啓示だと思った。」

 心に残る稲越さんの言葉
「自分が“無”になっていれば、風景が素直に見えてくる」
「歳を重ねるにつれて、やはりあの高山で生まれたことの中に、自分の哲学というか、モノの見方の原点があるということを感じるようになったのです。高山の整理整頓の美学かな…」

「写真を表現するときには、必ずセレクションというプロセスがある。セレクションすることそのものが、自分の哲学になるんです。どういうものを選ぶか、そこにその人の思想や哲学が出るわけですからね。だから、撮るという行為そのものだけでなく、何を選ぶかということも問われるわけです」

「僕は、美の根源というのは、やっぱり引き算だと思っているんです。本当は、これ以上引けないという、究極的な美しさを持っている気がしますね」


「外に出てみないと、本当の日本の姿が見えてこないところがありますよね。旅をするというのは、ある意味で自分を見つめるということなんです。自分がどこへ向っているのか、ということの確認になる。僕にとって旅をすることは、食事をするのと同じ感覚なんです。どこへ行くから、ということで大義名分を持っていくわけではない。日常生活で行うことの延長ですね」

「行くまでの時間、空間というのが大事なんです。食べるまでの想いというのが、消化することに加速を付けていく。いかに、思いのたけを高くするか。高めて実際に行ったときのギャップに直面しても、そこからまた面白い表現が生まれてくるんですよね。」

奥の細道というのは、最後の修行僧のような感じで、自分の死を見つめる旅だったのではないかと。すべてのものに対して、憐れみと同時に、慈しみの心が、俳句となって表れているのではないかと思うのです。それが僕にとっては写真ということになります。」

3年かけて撮り続けた「奥の細道
 芭蕉は“旅は虚である”とも言っている。 私の眼の前にある風景たちはまぎれもなく私にとって実の像であるのだが、芭蕉は旅は心のありようで眼に映ってくるものすべて本当のものはなく個々の見方で違ってくるとも言っている。
それは旅のみではなく生きている日々のすべてにも言えることなのだと思う

 深く静かな写真に稲越さんが俳句を詠むように、大自然の風景から心象を見出したその一瞬。それを感じて、帰りに本を買って帰る。ご本人にお会いしたかった。
 展覧会はまるで追悼しているように、静かに深く心に沁みる。
彼は「風の旅人」として自由に旅しているだろうか。

まだ見ぬ中国

まだ見ぬ中国

フクヘン。で作品と共に紹介されていた。


 ご冥福をお祈り致します。