田渕俊夫展@日本橋三越

 初めて出会い惹き込まれた。

田渕俊夫画集 刻(とき)

田渕俊夫画集 刻(とき)

 循環する水、地に根付き芽吹き育つ木々や花のサイクル
春夏秋冬の四季折々の変化、ホーチミンを駆けるバイクの昼夜《時の証人》

 東京藝術大学で学び、その後アフリカに留学したとか。
アフリカの赤い大地を描いた絵が本当に素晴らしく生命力にあふれる。

 転機を迎えた《川》は地元の江戸川を描いたもの。
日常空間でも十分評価されると知ると きっかけとなったとか。
普段見慣れた光景でも、ちゃんと立ち止まって観察を続けると
必ず変化していることを知る。
 富士山麓の一面ススキ野原をスケッチして、
芽吹き成長し、やがて枯れ行くまでを 一枚の絵に収める。

 植物がもつ強い生命力、
水が大地にしみ込み、大地に含まれ 滾々と水が湧き出る様
丁寧な筆致で描きこんでいる。

 日本画は省略の美、単純化された美が多いように思うが、
非常に精密な筆致で描き込んでいる画が多く思えた。
 また 東京都心のビルが立ち並ぶ夜景、電信柱と電線を巡らす街
ビル屋上の看板裏から見る道、規則的な影を落とす鉄格子の門など
日本画の題材にしては 大変ユニークな視点が多く見えた。
 
 金地の大海原に 波間に浮かぶ光は「朱」 蹴立てる波は「胡粉
進む一艘の船を描いた《出航》
 インドのシヴァ神が見事な舞を見せる背景に広がる大地

 見事なのは、立派な土佐和紙に墨の豊かな濃淡を活かして
描き出す襖絵。
 さすが三越だけあって、襖絵の展示は建具・畳も含めて
良いものを使っている。あの空間を見事に仕切り分けて
静寂な襖絵を鑑賞できる場へ。

 《時の証人》の製作がきっかけで
「色彩を使うと絵が重くなるが、墨では虚像的なリアル感が出てくる」
と墨の世界挑み続けていらしたとか。
 墨は様々な色彩をすべて表現できる可能性に満ちた画材だが
その分、その一筆の濃淡強弱含め 非常に集中力を要するもの。

 永平寺の襖絵24面は素晴らしい。
《雲水》とは曹洞宗大本山永平寺に集う修行僧を指すそう。
全国各地から寄せて禅寺で厳しい修行を経て、また全国を巡る。
 その禅の言葉に掛け、またその言葉に込めて描いた水の変化
水が川となり霧となって立ちこめ、空まで上がり雲となってやがて
雨となって地に戻る様子を描いているという
「生々流転」 全ては循環するさまを描く。

 鶴岡八幡宮斎宮の襖絵6面は、四季折々の中で営む生活も描く。
三日月さえも本来は真ん円なことをきちんと描く画家を
初めて観た。

 立体感や奥行きさえもきちんと捉えて描く画だ。

田渕俊夫 京都を描く―感動を表現する日本画の技法

田渕俊夫 京都を描く―感動を表現する日本画の技法

 日常の些細な変化、そこここに生える雑草でさえ見事な美が存在する
そんな視点を教えてくれたよう。
 そして 豊かな墨が広がる土佐和紙の包容力。