歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪」@国立劇場

平成20年度(第63回)文化庁芸術祭主催

江戸川乱歩=作「人間豹」より
人間豹 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
岩豪友樹子=脚色
九代琴松=演出
11月歌舞伎公演「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」

市川染五郎が乱歩好きが高じて新作歌舞伎。

 昭和初期の原作が、平成の脚本で江戸幕末を舞台に歌舞伎俳優で演ず。

 江戸川乱歩はその作品が、数々の映画、舞台、そして漫画にまで
様々な変容をして広く馴染みのある探偵小説家。
 この「人間豹」は昭和9年1月号から10年5月まで「講談倶楽部」で
連載されていた小説。

 岩豪友樹子さんは何度か歌舞伎脚本で受賞されているが、
今回は市川染五郎の提案を受ける形で何度も書き直された
ご苦労が感じられる、なかなか展開の素晴らしい脚本だった。

 演出 九代琴松は言わずとしれた松本幸四郎
舞台構成もお見事 舞台の早変わり、雷雨の決闘場面や
浅草の地下洞窟、見世物小屋、屋外と三段構成の舞台には驚いた。

 市川染五郎さんが大の乱歩好きで、この演目が実現したとか。
その意気込みを感じさせる。
美形で多芸だが恋人を惨殺されてしまう運命を受ける神谷芳之助
そして不幸な生い立ちを背負い横恋慕しては美女を惨殺する恩田乱学
この光と影ともいえる両極の役を早変わりも含めて演じきっていた。
鼓の名手として、実際も舞台で演奏された音色の良いこと。
 
 松本幸四郎さんの存在感は舞台を引き締めるのには素晴らしく
台詞立ち振舞い、全てにおいて明智小五郎を演じるに相応しい。
二人の割り台詞の掛け合い、決闘場面などなかなかのもの。 

 市川春猿さんは麗しき三役を演ずる。
顔が似ているけど性格も役柄も全く違う三役を見事に演じ分けていた。
染五郎演じる芳之助の恋人 商家の娘お甲 女役者お蘭
幸四郎演じる小五郎の女房お文
 途中人間豹に殺される場面が二度も!!!麗しい姿が血染めに。
国立劇場のパンフレットには 写真が載っていなくて残念)
オドロオドロしい場面もあり歌舞伎の形をした乱歩の世界。

 音響も、和太鼓、ジャングルのような太鼓遣いも入り、
義太夫(竹本浄瑠璃)と長唄(新内)の掛け合い、
新内流しの新内仲三郎さんの弾き語りなど、音楽も聞かせどころが
多彩だった。

 さて現実の、江戸川乱歩自身は戦後になると大変穏やかで温厚で、
後世の育成にも尽力しており雑誌「宝石」で新人発掘に奔走され、
また 先代勘三郎丈と交友も深く、ご自身も文人歌舞伎をする程、
歌舞伎大好きだった面も初めて知った。

 国立劇場では、初版本「人間豹」、愛用のステッキと帽子、めがね
そして「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと。 昼は夢、夜はうつつ」
の書も飾ってあった。(舞台では、老婆百御前が怪しく唄っていた)
ちょうど立教大学の横にある旧江戸川乱歩邸にて邸宅前には「人間豹」がずらりと並んでいてた。幸四郎染五郎がこの邸宅で撮影されたそう。

 江戸川乱歩邸の土蔵にある書庫を見ていたら、その蒐集保存の徹底振り
まったく超人である。いつの世にもインスピレーションを与え続ける巨人。