ジョン・エヴァレット・ミレイ展@Bunkamura

英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠「 ジョン・エヴァレット・ミレイ展」
あと10月26日まで。まだ未踏であればジョン・エヴァレット・ミレイ展 UK-JAPAN 2008を参照して。
Bunkamura PLAZA
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オフィーリア
シェイクスピアハムレット」第四幕、王妃の台詞。
朝から日没まで絵筆をとって徽密に写生したという 草花がそれぞれシェイクスピア花言葉を想起させる。「オフィーリア」のための習作や他の作家を見ると、やはりこのポーズが一番悲劇を一層感じさせ、美しさも際立つ。モデルの「ヘレナ・シダル」もよくぞ文句も言わず耐えたもの。彼女が永遠に絵画で生き続けることが素晴らしい。

両親の家のキリスト
「両親の家のキリスト(大工の仕事場)」の額縁も立派だが、この鉋屑、足の指、爪まで注目。足で人物の年齢や職業がわかる。皮膚の下を流れる血潮までも描き出す。いやはや恐ろしい描き込み。
徹底的に観察し、徹底的に写生を重ね、徹底的に緻密にキャンバスに描き出す力に驚かされる。

木こりの娘
愛らしい姿の先の悲劇が。愛らしく苺を受け取る娘の頬、彼の白タイツのしわまで丁寧。詩が絵画を生み出す幸せな一枚。

マリアナ
多くが机に臥す姿なのに対し、これは眩しいまでのビロードの青いドレスに手を当てて、ため息に振り返る一瞬を描く。ステンドグラス、床に舞う落ち葉、鼠まで何から何まで徹底的に描き尽くす。画面が全て忠実な写生を活かした表現力でむしろ驚くばかり。

安息の時
メンデルスゾーンの音楽からの着想とか。左のシスターの腕から浮き出る血管。右のシスターのスカルと十字架に驚く。静かな夕暮れなのだが、その生きること死ぬことの境界線の存在感に。

《姉妹》
小さい頃から描かれていた面影が感じられて、絵を順番に追うと本当に成長記録みたい。芸術のための芸術、自由に解釈すればよいというスタンスながら、丁寧に描き込まれている。
愛すべきミューズ「エフィー・ラスキン」を描いた水彩画。ミレイの友人でもあるジョン・ラスキンとのドラマも。ラファエル前派の男女関係が複雑に絵に登場し表現されていく。芸術家はプライベートな面も全てが研究対象として曝け出される。そういう意味でも、芸術家は神経が強くないと生きられないというが本当だ。死してもなお絵の前ではとやかく言われる。
ファンシー・ピクチャー(「空想的な絵」風俗画)とは愛らしい子ども達が愛らしい衣装やポーズを取るもの。どれも可愛らしくて魅了される。
人物の表情を美しく丹念に描く反面、衣装には大胆に省略される部分を得て、引き立てる効果。
「初めての説教」「二度目の説教」少女は5歳になったばかりのエフィー
この絵を見て好きにならない人など いないはず。
「ベラスケスの思い出」などマルガリータ王妃のタッチをそのまま活かした作品。大きな本に座っている女の子のドレスは、ベラスケス調。大胆すぎる筆致なのに。

秋が似合うスコットランドの空気を緑を描いた晩年の作品は、本当に英国こそ偉大なり。そういう時代を生き、そういう時代を伝える絵画に会えた展覧会だ。
《霧にぬれたハリエニシダ

シャーロック・ホームズ」「不思議の国のアリス」「ピーター・ラビット」も、ヴィクトリア朝文化から生まれた。
英国の芸術界を新しく切り開こうと奮闘しつつも、ヴィクトリア朝の上流階級のみならず中流階級の心も掴み時代の寵児であった彼は幸せな家庭と人生だったに違いない。妻エフィーの故郷スコットランドに別荘を持つことが、ロンドンに住む者の憧れだった事さえも。

大英帝国が繁栄したヴィクトリア王朝。
可愛らしい少年少女の絵が人気だったもの、社会的な道徳が善であった時代。
Fancy picturesが健全で愛らしい少女の微笑みで尽くされているのは、ミレイのお陰。
最年少より才能を開花させ、古き慣習を打破すべく「ラファエル前派兄弟団」を結成。
しかし、美しき伴侶を得て、愛らしい子ども達8人に恵まれて、67歳で亡くなるまで、唯美主義的作品、子供を主題とした作品、肖像画、風景画など、新たな技法を探求しながら、ヴィクトリア朝の社会に相応しい幅広いジャンルの作品を手がけた。
パリ万博で入賞、フランスより勲章、最後は准男爵に称されて最高に幸福な人生を送ったと思われる幸福な画家かも。
1896年、亡くなる直前にはロイヤル・アカデミーの会長に選出されている。
多くの画家は時代の評価より表現力技法が早く進みすぎて、存命中は評価されず不遇な人生のまま死を遂げ、没後正当に評価される芸術家が多い中で、ある意味ミレイは人々が何を求めているかという意味での先見があった人物かもしれない。