ヴィルヘルム・ハーマンスホイ静かなる詩情@国立西洋美術館

 空間の中には無限の広がりがある。そして空気と光を描くのが本当に素晴らしい体験。同じの絵の中で異なる視覚体験。より美しきフォルムで再構成された印象。
北欧の空気はこういう感じだった。
雪の消音効果で沈黙する様に静謐。「廃墟」という表現には当たらないのでは。確実に人と共に建物は行き続ける。
 室内は閉じられた空間のようで、実は常に外気と繋がっていることを意識させる。窓から光が入り、ドアは開け放たれる事もあり、例え閉まっていても密室ではなく、きちんと空気はかよっているもの。

 彼のミューズであるイーダ・イルステズは モデルとなり、共に旅に出かけあらゆるインスピレーションを与えたのだろうか。
 
 構成は誕生からそれぞれの主題に併せてまとめ、同時代作家も交えた構成。しかし世界各国から集め、さらに多くの個人蔵が出展されていることを思うと、企画の地道な努力を感じる良いキュレーションと思う。また上部には各時代のハンマースホイ賞賛の言葉が掛けられている。時々見上げて自分と同じ表現だと思うだろう。

1.ある芸術家の誕生
 北欧の空気のようなシルバーミストの上品な銀色を背景に彼の妹「アナ・ハンマースホイ」が迎えてくれる。

2.建築と風景
 より美しきフォルムで再構成された印象。
北欧の空気はこういう感じだった。雪の消音効果で沈黙する様に静謐。「廃墟」という表現には当たらないのでは。確実に人と共に建物は行き続ける。
 筆のタッチが真四角を重ねたようでまるでレゴブロックを想像したのは考えすぎかもしれないが、非常に均一に重ねているのが印象的だった。
リネゴーオンの大ホール 美しいフォルムの重なり(25)
外の風景は空や光が美しく 光や雲の動きさえも美ゆえ(32)(35)(36)(38)

3.肖像
少ないながらも人物画。「肖像」として意識したものでない本来の人間の姿
チェロ奏者(42)は音色が聞こえてくる程

4.人のいる室内
  額縁というのは絵という空間を覗き見する装置なのだから、後姿ゆえ女性の視線を気にする事なく、その部屋を眺める。後姿は拒絶しない、むしろ落ち着いた空間への目を注ぐことが出来る。
 異なる方向からの光も取り込み「室内 ストランゲーゼ30番地」をあらゆる角度方向季節時間を変えて描く絵を並べてみるのが興味深い。3Dで再現したコーナーも現代ならではの鑑賞方法。

5.同時代のデンマーク芸術
 ずっと静かな色彩を眺めていたので、明るい薄緑色の空間にして、同時代に同じように室内画を描いたピータ・イルステズとカール・ホルスーウの絵が色彩鮮やかなことに驚く。それぞれが良いという印象。

6.誰もいない室内
 誰もいない部屋というが、住空間、なんといってもハンマースホイの体温がある。中庭からの光が美しい。光が描いた画家。

 何か似ていると思ったのは、安藤忠雄のコンクリート建築。
無機質で冷たく単一素材面で内側に向かった空間。しかし豊かな無限性が内側にはあり、また外からの光を室内いっぱいに受け入れる。その研ぎ澄まれた空間構成は余計なものを排除して到達した世界。