「小袖」江戸のオートクチュール展(第三期)@サントリー美術館

 着物を鑑賞するのは、身にまとう者のみならず。
今この機会に触れることが出来ることに感謝して、必ず行くべき展覧会。
日本文化が華やかであった時代の、当時の最高の技巧が全て尽くされた
芸術品となっているからだ。
 日本の衣服は、西洋が立体裁断縫製なのに対して、全くもって
1枚の反物を仕立てるが、畳むのも吊り下げておくのも平面である。
それが身にまとうことで、立体としての味わいも加わる。
 日本の着物に対する 織り染め、そして刺繍の技術が高いもの
カタチが平面と限定しているからこそ、そこの限定されたカタチの中で
極限を追求するカタチとなったからではないか。

 今回は非常に良品揃いで見ごたえがあるので、よくよく心して。

11◆丈模様振袖 総鹿子絞 気が遠くなるような鹿の子絞りを反物全てに
施し、竹林が浮かび上がる。あまりにもその絞りが細やかゆえに
竹はまるで紅で筆で描いたように遠くでは見える。近づいて驚くばかり。

32◆鉄線に石畳模様小袖
 石畳も黒そのものと 鹿の子で灰色に。市松模様がお洒落。

39◆葦に翡翠(かわせみ)模様小袖
 濃い萌葱地にすっと立つ葦の間に、水辺の宝石、翡翠が降り立つ。

40◆菊模様小袖
菊の花と葉をデザインした見事な配置。寛文小袖

46◆菊模様振袖
鮮やかな紅地に、葉や茎は緻密な友禅なのに、花は帽子染め。
そのバランスがお見事。黄色 白、浅葱、花にあわせて葉茎の緑も変化させる。

75◆格子に幟旗模様小袖
 五月五日の端午の節句を思わせる。紫の板締による染め 燕と暖簾の伊達紋、 

105◆平家物語振袖
 義経活躍の跡、1枚で物語が展開するなんて着物はなんて素敵なの。

121◆御殿御庭模様帷子
 薄く透ける麻地に、手間がかかる茶屋辻、楓と桜。
その緻密な図柄を見ても、これに糊を丁寧に置いていく事で実現する手間を考えると
本当にスゴイではないか。

◆芙蓉に猫模様小袖
この猫は必見。愛らしい表情もふさふさシッポも。

◆雪待ち南天に鶏模様小袖
ねっとりとした雪が降り積もる様。その雪の表現がまた見事
鶏の丁寧な毛を刺繍で再現、鶏冠は注目に値する。
若冲に似て...と言おうとしたが、足ががっしり気味。この足元も注目。
さらに、ひよこの愛らしさもたまらない。

最後には
◆御所車花鳥模様小袖
淀君所用と伝わる、貴重な寛文小袖の最高傑作が、現在に再現させた。
まず、黒と紅の染め分けた上で、鹿子絞に摺箔や刺繍の緻密な仕事ぶりには頭が下がる。

 雛形を丁寧に保存してあり、時代別に整理されて流れを追うと、
小袖でも文様に流行り廃りがあり、常に高度に進化し続ける技。
白黒で簡単な文様と説明があるばかりで、後は注文主の希望だったのか
それとも作者が最高の表現へと繋がるために、それぞれ努力していたのだろう。

 毎回行く度に悩んでいたが、ここの図録は買うことにして正解だった。
サントリー美術館館内の展示だけでなく、京都は紫織庵、京都生活工藝館、
無名舎、吉田邸、松坂屋京都染織デザイン研究所内など
それぞれ非常によい構図と背景で撮影されて、現在に蘇ってくる。
岡田三郎助の着物と洋画のコラボレーションも、展示作品以外の五例も
参照できるのも満足度が高い。 
 日本人として生きているならば、着物について知っておくべきだし、
これからも着る文化が残るようにしておかなくては。

 着物を見ると江戸時代の文化が見えてくる、そんな小袖流行の変遷も
非常に楽しい。
 やはり着物は着てあげて。日本の高度な技術ゆえ高いけれど、1枚の絵を
飾って楽しむように、1枚の着物で大変心も体も引き締るすばらしい体験を。