対決 巨匠たちの日本美術@東京国立博物館平成館

7月8日(火) - 8月17日(日)

 まさに大企画。計24名の作家による約100点ほどの作品は大作が多い。屏風や襖絵がこの東京国立博物館に移動してきたこと自体が素晴らしい。
 長きにわたり美術研究誌として活躍している「國華」が関わるゆえに、一層力が入った構成となる。日本絵画の史上初の名品展。たぶん後にも先にも東京国立博物館の見事なライティングと環境で堪能できるのは、今回のみ。

 以下 各対決の私の独断。
こういう勝手気ままに自分の嗜好が言えるのも楽しみ。

◇運慶 vs ○快慶  - 人に象る仏の性
地蔵菩薩」衣文。できれば快慶の背面、衣服の精緻な紋様と後頭部に注目。
ちょうど奈良国立博物館で仏像を見てきたゆえに、今回持って来れなかった数多い作品の背景も思う。私なら「快慶」

雪舟 vs 雪村」 - 画趣に秘める禅境
「慧可断臂図」(雪舟)ごつごつ岩の下の達磨禅師と左腕を持って弟子を請う姿。「蝦蟇鉄拐図」(雪村)の三本足のガマ君に笑う。こんな楽しい絵はたまらない。
私なら「雪村」

◇永徳 vs ○等伯 - 墨と彩の気韻生動
 永徳と等伯の間には、単に技を競い合っただけではなく、大手ゼネコン「狩野派」組が新規参入「長谷川」組を拒もうと邪魔すべく策略した話、いつの時代も変わらぬ。
「花鳥図襖」少し文字が見える。国宝に落書き!だそうだ。いつの世も不届き者がいるようだ。

朝日新聞はこれまた上手に永徳紹介をメディアに活かしている。
最晩年の「檜図屏風」と新発見の永徳若年の作「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」
と比べても面白いかも。「檜図屏風」元は襖絵だった形跡が見られる。
「松林図屏風」の余白の美、遠くから眺めた方が一層際立つ。水墨画を日本の気候に変化させた。私なら「等伯

◇長次郎 vs ○光悦 - 楽碗に競う わび数寄の美
黒楽茶碗銘七里。赤楽茶碗銘道成寺 長次郎の《銘大黒》は展示が短いので注意。
私なら「光悦」

この間に光悦書・宗達画の「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」は銀で描かれた鶴。宗達絵を堪能する時は上から、光悦書を堪能するときは腰を下げて横から見ると良いらしい。光の関係から見え方が変わる面白さ。

宗達 vs ○光琳 - 画想無碍・画才無尽
「蔦の細道図屏風」(宗達)書の烏丸光廣の旅人のような書き入みに注目。
京都養源院も感激した「松図襖」金地に見事な常緑の松の高み。宗達といえば扇面。しかし「狗子図」も可愛らしい
光琳の「菊花屏風」胡粉を盛り上げた立体的な菊花。花弁が浮き上がるようにライティングは見事。「白楽天図屏風」は能楽に題材。さすがは遊楽は教養に変わる良い事例である
私なら「宗達

◇仁清 vs ○乾山  - 彩雅陶から書画陶へ
紅葉が外と中が交わるユーリッド空間のような連続性に引かれて、意匠が見事な透彫反鉢。私なら「乾山」

円空 vs 木喰  - 仏縁世に満ちみつ
対決を◇と○で表現しているが、まさに彫が鋭利な円空、丸みの木喰とぴったりだ。
自分の米寿御祝に彫りあげるとは木喰仙人。
円空で有名な千光寺は私の故郷。両面宿難の方が好きだけど。
二人とも美術として彫っていない、信仰のカタチゆえに。
郷里贔屓で私なら「円空

◇大雅 vs ○蕪村 - 詩は画の心・画は句の姿
南画の技法を日本の風景に取り入れた二人がすごい。点描の色遣い「瀟湘勝概図屏風」(大雅)と「鳶鴉図」(蕪村)墨に藍を混ぜて濡羽色が見事。
「夜色楼台図」(蕪村)の雪がしんしん降る情景
三好達治 太郎をねむらせ、太郎の屋根に雪ふりつむ…の世界はここから。
私なら「蕪村」

若冲 vs ○蕭白 - 画人・画狂・画仙・画魔
若冲の「石灯籠図屏風」靄に浮かびあがる灯籠が灯るような印象を受ける。点描の石灯籠も良い。「仙人掌群鶏図襖」はサボテンと鶏の配置。あらゆる方向とあらゆる表情、雛も愛らしい。
「群仙図屏風」(蕭白)は気持ち悪い位に極彩色で埋め尽くす。高価な絵具を使用しているので、時代を超えて残存するこの艶やかさ。この絵を好む人間が江戸時代にもいたことが面白い と。
私なら「若冲

◇応挙 vs ○蘆雪  - 写生の静・奇想の動
 この時代は虎の毛皮から想像して描いてため、目が引きつれ耳が小さいのはそのせいだとか。応挙の毛の描き込みの見事さ。
 待望、廬雪の「虎図襖」が登場。襖裏面には猫が魚を狙う図があるとか。さしずめ魚から見た大虎猫ちゃん。
山姥図も恐ろしくも凄まじくも気になる画風。爪や歯に注目。
応挙「保津川図屏風」ねっとり水飴のような水中に閉じ込められたような鮎。
蘆雪は、金地に凄まじい勢いの岩を描きつくした「海浜奇勝図屏風」唯一の海外所蔵品(メトロポリタン美術館所蔵)
私なら「芦雪」

歌麿 vs ○写楽  - 憂き世を浮き世に化粧して
 二人とも売れっ子出版プロデューサーだった蔦屋重三郎との関係が深い浮世絵師。役者大首絵師写楽のライバルといえば通常は豊国だが、今回は美人画の第一人者である喜多川歌麿との対比。
「衝立の上下」は透かした先も両人も麗しい。皆美人画には弱い。
でも役者の人間性の本質を描く写楽、短期間一気呵成の大活躍。私なら「写楽

◇鉄斎 vs ○大観  - 温故創新の双巨峰
比較出来ない。それぞれの道がすばらしいから。

展示出品リストによれば大きく7月27日までの前期、7月29日からの後期に分かれる。
8月11日〜17日のみ「風神雷神図屏風」一昨年の出光美術館の引き揃えを思い出す。見逃した人は必見だ。

美の対決は「お互いを高める」対決でもある。双方どちらが優れているのではなく、自分に見合った嗜好など感じ取る。それぞれが日本美術を楽しめる展覧会となるであろう。
今回はぴあMOOKが公式ガイドブックと銘打って登場。

『対決 ‐ 巨匠たちの日本美術』のすべてを楽しむ公式ガイドブック (ぴあMOOK)

『対決 ‐ 巨匠たちの日本美術』のすべてを楽しむ公式ガイドブック (ぴあMOOK)

24人の絵師を描いたその詳細、彼が描いたエピソードなど満載で、図録よりずっとわかりやすい。今まで日本美術なんて…と関心がなかった人も引き込める、なんともわかりやすくて面白くってますます好きになる構成である。
山口晃氏の原画展は平成館入るとすぐ右のコーナーの展示されている。
「國華」記念もあり、今までの記事が検索見ることができるデータベースも登場している。あの壮麗たる和綴じ表装の表紙から毎号、東洋美術史の研究成果を発表する場となっていた。早くからマイクロ化、CD-ROM化もされており東洋美術研究には必須の資料である。
 そもそも「國華」は岡倉天心が発刊し、大変な高級美術雑誌として今日まで発展してきた。その後ろ盾には、朝日新聞が発刊継続を支えたこともあり、今回の大規模なコラボレーションとなったようだ。更には、東京国立博物館所蔵資料、日本全国の寺院等で大事に保管されてきた美術品の数々が、今回集結する事になり、大変恵まれた環境で、ライティングもやわらかな蝋燭の光を灯して観るように、しかも通常のような暗い空間ではなく、晴れやかなこの舞台での結集である。
 それらは、今まで「國華」で研究発表の機会を得た過去の日本美術の結晶であり、このような大企画が実現した事が多くの協力があってこそ 素晴らしい時間である。

 誰にとっても一生に一度という比較展示になろう。折角ならば、美術展の趣旨にあわせてあの好きだった作家の好きな一枚が比較された視点、あの場でのライティングと展示形式での体験。それぞれが日本美術が面白いというキモチを持って帰れば満足ではないだろうか。
 展示解説も今は無用にして、まず絵を見る、そして作家や解説を見る という楽しみ方の方をお奨めしたい。細部を観れば見るほど発見がある。
 それは実物にしか出来ない力だから。