井上雄彦 最後のマンガ展@上野の森美術館

jfo15012008-06-09

バガボンド」 「スラムダンク」を送り出したマンガ家 井上雄彦が、美術館の空間に挑む。
全館描き下ろし。100点以上におよぶ肉筆画で構成される、この時この場限りの空間マンガ。

 「最後のマンガ展」というネーミングにあまり気乗りしていなかったが、
しかし こんなに展覧会場を丸ごと展覧会のために描き切った画力と
この構成力、本当にモノクロームの世界で バガボンド 宮本武蔵の境地を描いた。
 その墨の勢い、滲みや濃淡までも絶妙なニュアンスによって 彼の世界観
それぞれの人物の心境を描くとは恐れ入り、まさに日本文化の雄と見受けた。
 和紙と墨で描き続ける画面を追えば、それで十分。

 もし「マンガ」というカテゴリーを強調するならば、
吹き出し台詞があること か 人物の頭に「!」を描いて 感嘆符を現す位だろうか
マンガでは特有の効果音を文字と絵で描き入れたり、動線を線で描き入れることはない
とにかく静謐なしかし怖ろしいまでに、空気が緊迫する場面展開が続く。

 人物の表情とその人生を描き込む皺の深さも本当に 
マンガ という枠内では収まらない 彼の本気の画力に圧倒させられた。

 和紙と墨、何事も一発勝負の作品揃い その集中力に恐れ入るばかりだ。

 入り口から壁にもしっかり目配りして進むように。
少年の表情、白壁に蝶が....
 時に最晩年の武蔵 洞窟で隠棲する武蔵を ある少年が「弟子にして欲しい」と。
まさに「最後のマンガ」となる場面への展開
 場面により和紙の紙質も筆致も変えて、また和紙を変形させたり パネル仕立てにしたり
様々な技巧を凝らし、ケント紙とペン描きの通常のマンガ原画とも印象が異なる
場面を緩急取り混ぜ、あの世のお師匠との出会い、そして数多くの弟子志願者の列...
おつうとの若き頃の出会い、
 記憶を辿る自分の過去の回想も だんだん若く、そして幼く 
木刀を持つことも止め、すっ っと木刀が地面に落ちる瞬間
母に抱かれた時まで遡りやがては母なる海へと胎内へ戻り行く過程。
 誰もが静かに言葉を失い この世界にすっかり入り込んで それぞれが対峙する場面。
人間として「生きる」事を この会場内全てを使い尽くして描ききった展覧会。
そして蝶が舞う。

 目はやはり井上雄彦流のマンガではあるが、人物の動き、背景の余白
画面処理の丁寧さは本当の意味での「日本画」に属するのではないか。
世界の誇るべき日本文化と言われたら、堂々と この展覧会で示せることだろう。
「マンガ」という範疇は、手塚治虫が広め、この井上雄彦の画力で美術にも高められる。
「肉筆画」へと変貌してしまった。
それは当時 陶磁器の包み紙にされていた「浮世絵」の絵師達が描く「肉筆画」が
世界中の美術館に収められて貴重なコレクションを構成しているように。
 注目してしかるべきの作家であろう。

 土日混雑必至の展覧会。
いつも リアルタイムで「モーニング」で愛読している漫画だが
線が多いかなり熱い描き手で、空間も上手い氏。
 2006年には、二つの画集も出している。

バガボンド画集 墨

バガボンド画集 墨

バガボンド画集 WATER

バガボンド画集 WATER

 この展覧会では携帯を非常にユニークなツールとして使われていて
会場最後のQRコードを読み込んでメッセージを送ると返事がもらえる 心憎い仕掛け。今現在の技術を徹底利用した双方向に堪能できる展覧会であった。

私はカエルでした。 携帯で返事がもらえるとは、大感激。

・・
いつも「最後」を心に置いて生きることが、人を強くし、やさしくするのでしょう。あなたの心にもあるその場所が、これからもあなたに日々を生きる強さと、やさしさをもたらしてくれますように。井上雄彦