今、蘇るローマ開催・日本美術展@日本橋三越

1930年 昭和5年にイタリア政府が主催で日本美術展覧会が開催された。
これは、大倉喜七郎氏が当時のイタリア首相ムッソリーニに、横山大観の絵を寄贈した縁で、
イタリア政府の後援も得て、
イタリアの首都ローマPalazzo delle Esposizione
で開催されたという。
日本美術の代表的画家80名による作品数177点ほど。
日本から大工監督6名と表装師2が同行して、日本的空間を設えてたそうだ。
この展覧会は大変好評だったそうで、観客数166,500人
 日本でもこれほど贅沢な展覧会は難しいであろうと思われるほど。

 当時の図録はモノクロではあるが 細部の霞がかった空気や、
不動尊の衣の様子などよく再現できた当時としては豪華な図録と思われる。

 横山大観が団長を務めただけに その原稿の文章からは
日本人としての愛国心と気概が感じられる作品である。
大正・昭和の日本画になると、今までの平面的な構成から、立体的奥行きを持ち
モノの存在感をどう表現するか模索して、あらゆる可能性を探りつつ
形にしてる過程を感じた。
色彩の豊かさ、樹木のこだわり。色の使い方。
 大倉喜七郎が、今回の展覧会開催に当たり
全ての経費を捻出して実現したというからなんともスケールの大きい展覧会である。


横山大観「夜桜」
 これは当時の展覧会で一番人気があったそうだ。
 大観展では見損ね初めて対峙。
その桜の見事なまでの咲きぶり 
雄蕊を誇らしげに見せる満開の花 潔く散り行く花びら 咲かんとする蕾
日本画らしく全て正面を見せていると思っていたら
細かくちゃんとガクを見せる後姿もある。
その常緑の松との競演、
燃え盛る篝火の元で華やかな一生を遂げんとする姿が、
大観が理想とする 日本人像を描いているような気がした。
篝火の煙で見えない花は上部では輝く雄蕊を見せて また花の姿。
背景の銀色の月と蒼き夜空は古典的ながら
桜の陰影も花やぐ桜の花 過去現在未来のような全て 夜桜ならでは。

 伝統的な大和絵も、琳派の意匠も感じられるが、
覚めるような青き夜色の空に銀の月が輝き照らした中で、
常緑の松よりも 篝火よりも一層艶やかに力強く華やかに咲き誇る桜に
日本人かくあるべし と言わんばかりにも見えた。

 大観は時代が時代故に戦争加担の国粋主義としての評価もあったようだが、
彼の講義録によれば ご自身でも発言しているように「生々流転」 
あの大絵巻のように、人間も時代とともに変化し続けるのだという。
日本人としての気概を強調するあまりに、確かに罪なき若者の命が
この後失われていくという日本の歴史もまた 知っておかねばならない。

参考)論文 佐藤美貴三重県立美術館学芸員
横山大観《夜桜》について

◆下村観山「不動尊
モノクロの画集でさえもその魅力が伝わるが、やはり本物の気合が
素晴らしい。衣文など明治の廃仏毀釈咎める様な顔つきと思うのは
個人的な感想かもしれないが。
日本文化という面では良い作品だと思う。

川合玉堂「奔潭」
この波の形の奇妙なまでの迫力ある動き。 静かな平面から動きを感じる波
また山口晃のメカ波を想像させる もしくは ニョロニョロか

竹内栖鳳「蹴合」軍鶏
橋本関雪猿猴図」 猿
◆西村五運「淡光」 兎
それぞれの質量感がある毛並みの表現の見事さに目を見張る。

◆山本春拳「雪渓遊鹿図」 
 この前に立って一挙に体感温度が下がる程に深々降る雪
クールビズにはこれが良い。

安田靫彦「風神・雷神」
 まるで少年漫画に出てきそうな愛らしい姿。
劇画を屏風仕立てするとこういう感じだろうか。

前田青邨「洞窟の頼朝」
 想像した以上に大きな画面で、大きな目や鼻、口
伝統的な日本人の顔つきとは違う武将を捉えている。
視線がぐるりと巡り右手彼方へと向かう。
山口晃氏の自画像「洞窟の頼朝」を思い出す。
頼朝は多くの日本人にとってヒーローであった。
義経が悲劇のヒーローであった裏面ではあるが。

小林古径「木莵図」
紅の花と木莵の瞳の美しさを引き立てるまでに
最大限に省略を重ねて孤高の姿を描く。
墨絵の古径が好きだが、これも良い。

◆伊藤深水「小雨」
◆三木翠山「鏡」
鏑木清方「七夕」
後期の七夕尽くし。墨流しに筆、短冊の絵を散らす洒落た着物を虫干しか
後姿のうなじの美しさ。日本美人はこれで十分すぎるほど美しい。
 こういった日本人の心を体現できる美人は少なくなった。
永井荷風のような気分で、古き良き女性の姿を見入るばかりである。

 日本美の真髄を出さんと、絵画のみならず16もの床の間、そして青畳を設え、
生花や香り(草稿より)を生けては日本文化のゆかしき風情の空間を
演出した力はまた素晴らしいものである。
 
◆大倉集古館にて来年開催予定である。
この際には、ローマ展開催時の模様などうかがえたら幸いである。
2009年1月2日(金)〜3月15日(日) ESPOSIZIONE D'ARTE GIAPPONESE,ROMA,1930
追憶の羅馬展―館蔵日本近代絵画の精華