西行の仮名@出光美術館

 この展覧会は、平安時代鎌倉時代という「宮廷のみやび」展にように雅やかな時代の筆が会場中に展覧される機会に恵まれた。

 西行の生涯を詠んだ歌を元に「西行物語」が生み出されて、また西行の書の特徴である、鋭利さがありながら流れるような麗しき筆遣いに、皆が心を奪われるようになり、後世に「伝西行筆」として伝わる作品が多くのこされた。前回の伊勢物語の一主人公とされる「在原業平」といい、「西行」もまた後世に様々な影響力を及ぼす歌人であったようだ。

 今回は 冷泉院の私家集類に「西行」の筆致が認められて、冷泉院の潮流にある 藤原俊成や定家と一緒に書写したのではないかという精密な研究成果。

 出光美術館の出品リストでは「・・切」とそっけないが、実際見てみると、どれだけの年月を経てその筆跡を大事にされてきたかわかる。
  冷泉家時雨亭文庫(れいぜいけしぐれていぶんこ)は、 公家の名門であり、歌道の家として知られる冷泉家に伝わる古写本、建築、年中行事などの文化遺産を保存し、歌道を継承することを目的として昭和56年財団法人として設立された。
 
今回は 冷泉院時雨亭文庫での筆跡調査結果の報告。
美術館会場を借りての成果報告ですが、平安と鎌倉時代書がこれだけ多く残っている事は、戦乱の時代、東京大空襲など戦火を免れた事自体からとても貴重といえます。
 冷泉氏は 藤原俊成・定家・為家は三代続いて勅撰和歌集の撰者に就いたことに依り「歌の家」として代々続いた名家。
 乱世を無事生き抜き、現在このように時雨亭文庫の書と対面できる幸運に繋がっていく。

『京都冷泉家の八百年』を読んで〜「和歌の家」が守ってきた文化財 2006/01/06

京都冷泉家の八百年 ~和歌の心を伝える

京都冷泉家の八百年 ~和歌の心を伝える


 多くの人の心を掴むのは、現在成し遂げるには勇気が必要な事を実際に達成した姿。名誉も家族も捨て仏門に帰依し、捨てた家族からも信望されたすがた。
それが断片的な和歌を寄せ集めて、彼らの憧憬の結晶体として、西行像や「西行物語絵巻」に展開するのだろうか。

 今回は 前半は真筆を含めた書断片の鑑賞、後半は「西行物語絵巻」全4巻の鑑賞。宗達は緑や青のたらしこみがまた見事に上手い絵師であって、烏丸光広ののびやかな筆遣いもまた西行遍歴の旅のごとくドラマチックである。第三巻だけは 尾形光琳の作となり、他と比較してしまうが、宮内庁三の丸尚蔵館から出品された甲斐ある艶やかな絵巻であった。
 巻き替えがあるため全画面をパネルにしてそのあらすじを記する配慮はなんとも丁寧。

 西行伊勢物語追体験あり、はかなきもの、花に託して歌を詠みて生きた半生。
 歌の心を残していく「歌の家」に縁ありて現世に伝わる事こそ幸いである。
 鎌倉の北面武士としての経歴や家族を捨てて、漂浪歌人として全国を放浪した姿は、後に多くに人に憧憬を抱かせただろう。孤独に流浪する僧姿は、その後の山頭火の生き様も彷彿させた。

◎好きな 西行の仮名
出光美術館のポスターに使われている「中務集」

参照

みゝさらめや
・・
 かへし
さやかにもみるへき月をわれ
はたゝなみたにくもるをりそ
おほかる
・・
 としころありて人にわ
 かれて
ころもたになかにありしは
うとかりにすたれのうちのこへ
・・
 かへし
うちとなくなりもしなまし
たますたれたれとし月を
へたてそめけむ

ゆるやかに弧を描く 「や」
鋭い筆入りながら優雅な 「み」
連綿で引き締まる 「ろ」
私達の「西行の研究」
パズルも面白かった。

◎好きな 西行の句
ねがはくは花のしたにて春死なんそのきさらぎの望月の頃