王朝の恋 描かれた伊勢物語 後期@出光美術館

「雅と恋のかたち」
和泉市久保惣記念美術館がこの展覧会の元祖ですが、
関西大学図書館伊勢物語もインターネットで見れます。

 今回見事に「王朝の恋」に仕立てた仕掛け人笠嶋忠幸氏が
event box MARUNOUCHI vo.36」
月刊なごみ 2008年1月号 男・業平の恋ものがたり 伊勢物語デザイン」(淡交社
読売新聞と 多くの媒体を通じて解りやすく手ほどきをしてくれます。
しかも展示もそれぞれに短いあらすじや 仮名の読み下し
観るべきコツなど丁寧にパネルにしているので、
日本美術初心者のカップルのデートでも大丈夫!

恋ってこんなものかしら

 「むかし男ありけり」で始まる恋物語の断片集
自分の気持に純粋なまでに正直で 老若問わず女を愛して愛し
愛する女を追いかけ愛される女には少し労わり、
でも辛い恋には逃げがちのちょっと優男です。
平安時代から愛されて多くの解釈を呼び、注釈本まで大量に出てくるし
嵯峨本、奈良絵本と愛されて、果てはこの物語にインスピレーションを与えて
小袖、茶道具、工芸品、和菓子、さまざまに愛されてきた作品とわかりました。

1)むかし男ありけり
 岩佐又兵衛が描く在原業平は 
立ち姿で今にも彼女に会いに行こうとする男
業平は歌の名手として六歌仙に選ばれ、またその歌は多くを愛された。
その活躍ぶりゆえに、伊勢物語=業平 とまで
スターダムになった 優しき恋多き男
そのお陰で後世には源氏物語が生み出されたきっかけになったかも
しれませんね。ただ 伊勢物語は「をとこの恋の物語」ですけれど。

2)描かれた恋の行方
 鎌倉時代の現存する最古の伊勢物語絵巻 
噂に聞きしその姿 見て驚きました。
図録やネットの画像で鑑賞出来ますし、展示室ではパネルでも
丁寧な拡大図と説明が付けられて 本当に心優しい配慮なのですが、
鎌倉時代のこの絵巻そのものの存在感には適いません 見事!

 しかし詞書と絵が呼応していないのですね。
ちなみに5日は
絵23-2(河内越)、詞1-3(春日の里)、絵4(西の対)、詞27-1(盥のかげ)、絵41-2(緑杉の袍)
詞書の下絵も細やかながら情景を描いているので注目です。
今日はひと目見ただけでも十分価値がある展覧会でした。
 今でこそ当たり前ですが、室内の情景を描くために
柱、御簾、屏風衝立をジグザクに斜角に折り畳んで、室内も舞台の如く
上手く見せてしまう仕掛け。そこに注目したら 本当に感心するばかり。
 そこに佇む人物がまた表情豊かで仕草まで細やか。
虫や動物など小さき生き物まで丁寧に描き込んだ細やかさに驚きます。
パネルでその小さきものまで注目できるように配慮されていました。

 伊勢物語図色紙は細やかな展示替えを行っています。
やはり気になるのは色紙という四角の小さな世界に収めた省略された美。
 室内は畳や縁を描くのみで示して人物のささやかな機敏で
物語を描いてみせる心憎さ。表装見比べも絵と共に鑑賞深きもの。

3)東下り
 伊勢物語第九段実体験コーナー。
宗達「八つ橋図屏風」は本当に贅沢なまでに蒼き道筋
かきつばた で有名な句の下の文字をたどると
うるわしき と読めるという粋な歌が本当に相応しいもの。
 八つ橋 宇津山 東下り=富士 禊
出光美術館の収蔵品でぐるりと体験できる贅沢な間でした。
センチメンタルな気持でぐっときます。

4)恋白露
 ここに学芸員さんの情熱入っていますね。
「扇面流し」は伊勢物語ハイライト
千切れ破れ水に流される 本当に恋とはそういうものですね。
後半は「梓弓」
岩佐又兵衛は前半の歌を交し合い三年間のすれ違いを詠う姿
戸の隙間より文を持って恋しがる女 
宗達の図色紙は まさに清水で果てる姿 か細き指から
岩に真紅の血でしたためる姿が朱が入って見えました。
この場面だけは幻想で留めたい 岩に血糊はあまりに情怨深く
嵯峨本、奈良絵本

5)伊勢物語を描く
 伊勢物語図屏風の比較が興味深い前期でしたが、
後期は左隻でまた違う味わいがあり。
風景だけで観ると 一枚の絵、
人物だけで観ると、動きのあるパノラマ図
風景がムンクの描く背景を想起してしまった 偶然かもしれない。

 出光美術館所蔵の「伊勢物語屏風」は
今でいうとジャニーズのポスターか
凛々しきイケメンボーイの恋模様 すべての段は彼が登場して
華やかで切ない甘い恋をする。

冷泉為恭「伊勢物語八橋図」
八橋の図はシンプルながら、表装部分に四季折々の花
見事なまでに贅沢さ。

 業平のように女性に優しい男性は多いかも。
一目ぼれしてまっしぐら 自分の魅力ですぐに女は手に出来る
でも達成したらなんだかもう飽きてしまって...
浅く淡く切ない別れを繰り返して
また懲りない恋の積み重ね。
やはり人を好きになったら 即行動あるのみ。
 恋とははかなきものゆえに、深き思い出の場所、思い出を
豊かな感性とイマジネーションで創作意欲を沸かせ
あの時のときめきを思い出させるものなのでしょうか ね。

 でも伊勢物語って、ブログの恋日記に似ていませんか?
和歌は恋人達のメールのやりとり
 後世の注釈本の数々はさしずめ みんなのコメント
トラッシュバックは、この物語でこんなもの作ってみました という
宗達光琳琳派の工芸作品などインスピレーションを
生み出したものたち。
 こんな見立て っていかがでしょう。
恋っていろんなものを生み出しますね。

 仮名と伊勢物語を予習して会いに行きましたが、前知識ゼロでも
全然大丈夫。日本美術を毛嫌いしないで寄ってみると良いですよ。
最後は皇居を眺めてお茶を一服 恋に思いを馳せる時間がしあわせです。