宮廷のみやび 近衛家1000年の名宝@東京国立博物館

 史料的価値と共に書美術にとっても大変素晴らしく有意義な展覧会だった。
その情熱ぶりはガラス戸についた脂が物語っている。三井記念美術館の安宅コレクション展以来の熱狂的なガラスの跡。

 保存管理上からも平安時代鎌倉時代の書画がきちんと保管されている事そのものが、幾多の戦乱を駆け抜けた時代を考えると奇跡の近い。
 日記や絵巻が丁寧に現世に伝えられてきた事は本当に大きな国の財産である。
 絵巻や日記が巻物の時代、陽明文庫には幾万の巻物があろうと想像するが、その内容を探し出すのは、書物でさえ大変なのに、ネットと違って困難な作業と思われる。
 藤原道長が長男誕生の喜びを記している場面、和歌を詠む場面に遭遇した瞬間の感激はいかばかりであろうか。願わくは「御堂関白記」がすらすら解読できれば と思う。
 日本史で教科書や書籍でしか知らない史実がこうやって、第一次資料として現存する事実に大変感激するばかりである。
日本史の味気ない教科書の一行に、血生臭い権力抗争や人間のドラマが込められている事を 贅沢な第一次資料で埋め尽くされたこの展覧会で、振り返ってみたいと思う。

《宮廷貴族の生活》
◆春日鹿曼荼羅図 鎌倉時代
◆類聚歌合(二十巻本歌合)平安時代
◆詠糸桜和歌巻 孝明天皇筆 江戸時代 

《近世の近衛家
源氏物語和歌色紙貼交屏風 近衛伊尹筆
●手鑑 後水尾天皇
◆詠草(身のうち茶) 後西天皇
◆懐紙色紙手鑑 近衛忠熙

《家熙の世界》
●大手鑑 上
 予楽院表具 明末清初の刺繍が見事に鮮やか。
表具の高価さを五島美術館で拝聴したところ。このような贅沢さが羨ましい。
◆花木真写 
 植物を正確に描き写す観察力もよし。写実的である。
春日権現霊験記絵巻 詞書:近衛家熙筆×絵:渡辺始興
 武具馬具はもとより 動物の活写が見事である。鹿は勿論のこと、馬の勢いが良い。兎や水鳥など小動物まで細やかで繊細。その詞書と絵のバランスもよい。
...現在、宮内庁三の丸尚蔵館所蔵。藤原氏氏神春日明神の霊験奇瑞をあらわした鎌倉時代の代表的絵巻の模本。家熙の命により始興が3年の月日をかけて模写し、詞書は家熙が自ら清書。

《伝世の品》
◆芥子人形
 ちいさきもの いとおしきもの 雅やかな雛の世界
青磁鳳凰耳花生 銘千声
粉青色の釉が美しい砧青磁花生の代表作。
... 「千声」の銘は、砧で布を打つ止むことなく響く音を千声万声と形容した詩句に由来。「万声」(国宝、和泉市久保惣記念美術館蔵)とともに後西天皇によって名づけらた....
◆秋野蒔絵伽羅箱他香道具類
池坊専好立花図巻
◆四季花鳥図屏風

◆御堂関白日記 寛弘元年上巻 藤原道長
◆安宅切(和漢朗詠集断簡)
◆高野切(古今和歌集断簡)
◆日野切(千載和歌集断簡)
◆多賀切(和漢朗詠集断簡)

 書状類のなんと時代背景がリアルに伝わる生々しい資料か。大徳川展でも歴史を示す書状を目の前にして感激したが、京都御所での栄華を極めた近衛家の所蔵を広く展開してくれたことに感謝。