国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展@Bunkamura

 「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」『ブロガー・スペシャルナイト』に参加させていただく。
 Bunkamuraでは2009年に「わすれえぬロシア」展で国立トレチャコフ美術館所蔵品で魅了した記憶が新しい。

 レーピンの魅力を語る座談会が、山下裕二教授と籾山昌夫氏とお二人を結ぶ"「青い日記帳」主宰のTakさんのナさんの三人で行われた。
 BGMはムソグルスキ―肖像画の前での「展覧会の絵」。


 19世紀のロシアといえば、文学ではトルストイドストエフスキー、音楽ではチャイコフスキームソルグスキーを輩出した。
 画家イリヤ・レーピン(1844−1930)は、数多くの歴史画、風俗画、肖像画を手掛け、ロシア・リアリズムの旗手として活躍し、ロシアの巨匠といわれる。時代のトルストイ、ムソグルスキーも画布に永遠の姿をとどめる。
 しかし、レーピンの生きた時代は帝政、革命、社会主義と繋ぐ政治的な動乱をも経験した。
 世界美術の歴史にはレーピンはそれほど知名度がない。
19世紀ロシア美術はロシアならびにソビエト連邦の時代まで国外を出ない限り世の中に記憶されず、またアメリカ寄りの美術史では「キッチュ」と表現され正しく評価されていなかったからだという。

 籾山昌夫氏は神奈川県立近代美術館主任学芸員であり、国内でも数少ないロシア美術史の専門家である。
 山下裕二教授は日本美術史が専門でこの展覧会では、レーピンが生まれながらに才能があることを指摘した。日本美術史の画家と比較したり、西暦と和暦に直して説明するなど、山下教授でなければ出来ない魅力的な視点が多かった。

 ポスターに使われた《休息―妻ヴェーラ・レーピナの肖像》この絵で展覧会がとても気になっていた。トークでは右腕に黒いリボンが描かれ喪章ではないか、X線調査では当初は目が開いてたなど、気がつかない点を教えられた。

《皇女ソフィヤ》このメヂカラが怖く、髪の毛も逆立っている。しかし、豪華なしつらえや洋服と窓の外の死骸の対比、レーピンがこの歴史画を取り組むまでの経緯を聞くと、この恐ろしい形相に深い憤慨と悲哀が込められることを知る。中野京子教授いわく「怖い絵」とある意味は変わりないが、そのロシアの歴史に血塗られた物語を知ることは、衝撃的でもあり大きな体験だった。
「怖い絵」で人間を読む (生活人新書)

 ロシアの大地に強くたくましく生きる人びと。皇女から民衆まで。文豪、作曲家、女優、愛妻と描く人物は限りなく、しかしどの人物に対しても真摯なまなざうしをもって描く。筆致を実物で体験すると、その筆遣いが人物によって異なることも知ることができる!絵から多くの歴史や物語が語られる。

 生来の類稀なる画才、どれも凄い絵である。
ロシアをもっと知るために、一度訪れると、その筆の確かさに感嘆するしかない。

 籾山昌夫氏のおすすめは《少女アダ》
小作品ながら顔の陰影を巧みに描いている点が素晴らしいとのこと 
 山下教授は、基本的に”タカビーな女性”がお好きとのことで、このドイツ人ピアニストがお気に入り。手前は舞台女優の素描だが、その特徴を捉える見事さがレービンの腕前を示す。

 こちらの将校は額ごと描かれた当時のままであり、在任期間まで掘り込まれている額というのは珍しい。