初春花形歌舞伎 市川海老蔵「伊達の十役」(夜の部)@新橋演舞場


 市川海老蔵(32)が10役に挑む。
口上で「 慙紅葉汗顔見勢 伊達の十役(はじもみじあせのかおみせ だてのじゅうやく)」の意味をパネルを元に解説(扮装写真は篠山紀信氏)
 慙紅葉汗顔見勢 伊達の十役(はじもみじあせのかおみせ だてのじゅうやく)=恥も外見もなく、顔を大汗かいて紅葉のように真っ赤な顔をして、ひとりで十役をこなす。極悪人の仁木弾正、逆賊赤松満祐の霊、足利当主頼兼、執権の細川勝元、乳母の政岡、足利忠臣の絹川与右衛門、足利忠臣の荒獅子男之助、腰元の累、傾城の高尾、悪坊主の土手の道哲。 惚れて惚れられ、殺し殺され、裁き裁かれ、大忙し。
 見た目はもちろん性格も違う十役を、次へと替わっていく。代役など周りとの連携もよく合っていて、やはり市川一門の連携プレーが巧くいった。そして宙乗りに屋体崩しなど歌舞伎のスペクタクルを、詰め込んだ夢のような舞台。

十役は (数字は登場順 あらすじを参照のこと)
悪玉(1)仁木弾正(足利家の執権)、(2)赤松満祐(弾正の父:亡霊)、(4)土手の道哲(坊主)
善玉(3)絹川与右衛門(足利家の忠臣)、(6)腰元累(与右衛門妻・高尾の妹)
   (8)政岡(世継鶴千代の乳母)、(9)荒獅子男之助(足利家の忠臣)、
   (10)細川勝元(執権)

(5)足利頼兼(足利家当主殿様) 
(7)高尾太夫(殿様身請け予定の傾城/累の姉)

 『慙紅葉汗顔見勢』は原作は四世南北、仙台伊達家のお家騒動をもとにした作品。文化十二年(1815)江戸河原崎座で七世團十郎が十役早替りで演じた。その後上演が途絶え、昭和54年4月明治座初演猿之助と脚本家の奈河彰輔が作り直し復活させた。
 猿之助のポリシー「3つのS」「今のお客様にお見せする歌舞伎には、まず起承転結のはっきりした筋立てを持つ物語(STORY)、テンポがよくメリハリのきいた展開(SPEED)、そして理屈抜きでお客様にインパクトを与える視覚性(SPECTACLE)がなければならない」。脚本の奈河彰輔によれば、「替わる回数四十一回、所要時間は一番長いので三分四十秒、最も早いので二.五秒、平均四十七秒」。特に発端の稲村ヶ崎など出てる役者は一人だけ、滑川土橋では27分に六役十回の早替り。傾城姿に早変わりする所を眼目にしている(殿様→傾城→物乞い坊主という替わり方)。大仕掛けな大道具や宙乗り

 「足利家奥殿の場」は『伽羅先代萩』の「御殿」でも有名。つまり、これらは元々台本が昔からあり、長年洗練されてきた演出が残っていて、「伊達の十役」の中で唯一義太夫の入る場面で、セリフ回しや所作をきっちりさせた上での政岡。
 花道での早変わりなど、驚嘆に満ちた場面。十役の海老蔵にはそれぞれ得手不得手もあるが、やはり家芸の荒事一番台詞も闊達で向いている。悪役が一番似合う。台詞回しや型も父団十郎を思わせる。また今回猿之助の指導を受けたことがよく感じられる。
 政岡は非常に難役だと思うが、「でかしゃった」台詞あたりが、好演していた。
 喋らなければ絶対美人なのだけど...政岡も好演してたが、似合っている役となると荒事か極悪人が似合うなあ。

私の勝手な名演ぶりベストテン
1位 荒獅子男之助(やっぱり一番活き活きしている)
2位 仁木弾正(4幕3場 極悪人が似合う 宙乗り姿も良いが)
3位 土手の道哲(めちゃめちゃ悪がまたまた似合う)
5位 政岡(難役)
6位 絹川与右衛門(キーパーソンゆえ)
7位 足利頼兼(お殿様ぽさ) 
8位 赤松満祐(一瞬の亡霊だが)
9位 腰元累(太夫に憑依される姿が)
10位 高尾太夫(化けて出てから本領発揮)

・・・・・あらすじ・・・・・・・
 足利家の執権仁木弾正(海老蔵・一役目)は、稲村ヶ崎の獄門台で父親の赤松満祐の亡霊(海老蔵・二役目)から「旧鼠の術」を授かり、足利家打倒を決意する。この妖術は子の年・子の月・子の刻生まれの男子の生血を満祐の命を奪った古鎌に注いで討たれると破れてしまうのだが、それを立ち聞きしていた足利家の元家臣絹川与右衛門(海老蔵・三役目)は仁木から鎌を奪 い取り、子の年月日刻そろった自分がいつかは役に立とうと心に決める。[稲村ヶ崎の場]

 仁木は幼君鶴千代の暗殺を企み毒薬を調達させるが、物乞い坊主の土手の道哲(海老蔵・四役目)に奪い取られる。道哲は企てを知り、自分も荷担することにする。一方廓通いの当主足利頼兼(海老蔵・五役目)は大磯の遊郭へ向かう途中の花水橋で暴漢に襲われるが、側近の山中鹿之助(弘太郎)に助けられる。[鎌倉花水橋の場]

 大磯三浦屋で放蕩する頼兼のもとへ、家老の子息渡辺民部之助(獅童)が腰元累(海老蔵・六役目)の案内でやってくる。外記左衛門は頼兼を諫めるため、累は夫与右衛門の勘気を解くためである。そこへ頼兼の馴染みである高尾太夫海老蔵・七役目)が戻ってくる。仁木の計らいで高尾は身請けされることになっているのだが、頼兼の叔父で足利家の後見役でもある大江鬼貫(猿弥)が現れ、高尾に横恋慕する。頼兼は鬼貫を一蹴し、高尾を館に連れ帰るよう命じる。もちろんこれはすべて鬼貫・仁木の陰謀で、聞いていた民部之助が思案にくれているところへ与右衛門が来る。与右衛門は仁木の企みと妖術のことを民部に教え、お家のためには妻累の実の姉である高尾を自分が殺害するしかないと決意する。[三浦屋の場]

 屋形船仕立ての奥座敷で、与右衛門は高尾を殺害、高尾はその真意がわからぬまま与右衛門を恨んで息絶える。物蔭に潜んで一部始終を見ていた道哲は与右衛門から鎌と高尾の裲襠を奪って鬼貫へ注進しにいく。[同奥座敷の場]

 頼兼の許嫁京潟姫(笑也)は、管領山名持豊を中心とした鬼貫・仁木たちの悪巧みを知り、とるものもとりあえず頼兼のもとへ急ぐ。そこを山名家の追手に襲われるが、民部之助と累に救われる。同じところに与右衛門が道哲と廓の者に追われて逃げてくるが、地蔵堂に身を潜めていた民部は道哲から鎌を奪い返し、累に渡す。姫を伴って館に向かおうとした累は誤って鎌で足を切ってしまうが、その瞬間高尾の裲襠が舞い上がって高尾太夫の亡霊が現れ、累に取り憑く。顔半分があざになり片足を引きずる累は姫を鎌で斬りつける。与右衛門は鎌をもぎとり、妻の累を殺す。そこへ頼兼・仁木・民部之助が来合わせ、与右衛門・京潟姫・道哲がまじって暗闇の中を揉み合いになる。最終的に、幼君調伏を依頼する仁木の密書は与右衛門の手に、鎌は道哲の手に渡る。[滑川土橋の場]

 幼君鶴千代に仕え、その身の安全を計っている乳母政岡(海老蔵・八役目)の所に、管領山名持豊の妻栄御前(笑三郎)が鶴千代を見舞いに来訪、仁木弾正の妹八汐(右近)らと共に出迎える。栄御前は持参した菓子折を鶴千代に差し出すが、それを政岡が制止、栄御前と八汐にたしなめられて政岡は窮地に陥る。突然政岡の一子千松が飛び出し、その菓子に手を出すが、たちまち苦しみ出す。八汐はすかさず千松を押さえつけて懐剣を首に突き刺す。目の前で我が子が殺されても若君をかばうばかりの政岡を見て、栄御前は政岡が我が子と幼君を取り替えているのだと早合点し、悪の一味の連判状を政岡に渡して帰っていく。後に一人残った政岡が息子の死を褒めている所へ八汐が襲いかかるが、政岡は八汐を一刀のもとに斬り捨てる。しかし連判状は大きな鼠がくわえて逃げ去る。[足利家奥殿の場]

 床下で見張りをしていた荒獅子男之助(海老蔵・九役目)は連判状をくわえた鼠を鉄扇で打つが、逃げられてしまう。術を解いて人間の姿に戻った仁木は悠々と宙を去っていく。[同床下の場]

 足利家国家老渡辺外記左衛門(市蔵)は、鬼貫・仁木を糺す願書を持って山名館に乗り込むが、山名持豊は全く取り合わず、訴えを握りつぶそうとする。そこへ執権細川勝元海老蔵・十役目)が駆けつけ、後学のためにと願書に目を通し、「虎の威を借る狐」の講釈をしながら山名と鬼貫をやりこめる。[山名館奥書院の場]

 幕府問註所の外では外記左衛門の息子である民部之助が成り行きを案じている。そこへ与右衛門が現れ、仁木の悪事を証明する密書を渡す。折から駕籠でやってきた勝元に直訴し、勝元は密書の中身だけを持って問註所に入っていく。古鎌を仁木に渡して金をもらおうとやってきた道哲を与右衛門は殺害、鎌を奪い返し、これで自分も役立てると喜ぶ。問註所では密書が証拠となって外記側の勝利し、家督も正式に鶴千代が継ぐことが決定する。[問註所門前の場」

 問註所の白洲で、敗れた仁木弾正が切腹の願いをとりなしてほしいと外記に頼むが、隙をついて外記を斬りつけ、妖術を使って消える。屋根の上で大鼠となった仁木に、与右衛門は自分の生血を鎌に注いで仁木に立ち向かうと、たちまち妖術が破れ、仁木は民部と与右衛門にとどめを刺される。勝元は足利家跡目の墨付きを外記に渡し、外記は安心して息絶える。[問註所白洲の場]

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そして、海老蔵
海老蔵そして團十郎