江戸の粋・明治の技 柴田是真の漆×絵@三井記念美術館

2009年12月5日(土)〜2010年2月7日(日)
時間 10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日、1月12日(火)・1月31日(日)
※但し1月4日(月)・1月11日(月・祝)は開館

柴田是真柴田是真 下絵・写生集

 入り口で作品目録と漆技法の解説がある。
 柴田是真の活躍ぶりは知っていた。東京国立博物館の漆工芸の常連で、海外コレクターの所蔵品展。東京藝術大学の下図展。
  安村敏信氏が(板橋区立美術館館長)監修されて、テキサス州サンアントニオエドソン氏コレクションを中心にして構成したもの。国内各美術館より名品。

 途方もなく匠。こんなに「だまし絵」ならぬ「だまし工芸」によって至宝の技を人を楽しませる為に駆使したのではないかと思うほど、魅力的な超絶技巧の数々!!!

 柴田是真(1807〜1891)は、幕末から明治期に活躍した漆芸家であり画家。
江戸両国に宮彫師の父(勝川春章に浮世絵を学んだ)を持つ。是真は、11歳で古満寛哉に弟子入りして蒔絵技法を習得。その後、画家の鈴木南嶺や岡本豊彦に師事し四条派を学ぶ。
 漆工におて各種変塗を復興し、江戸っ子好みの機知に富むデザイン。蒔絵師の地位。さらに漆工、絵画の双方に才を発揮した是真は、和紙に色漆を用いて絵を描く「漆絵」を発展させ、掛軸や画帖、屏風、額など多くの優れた作品を残した。歌川国芳も弟子入りしたとか。
 明治維新後には、欧米で開催された万国博覧会に出品して高い評価を獲得し、政府の殖産興業政策にも貢献した。また、名工・柴田是真の評判は宮中にも届き、明治期には皇室御用品の制作も多く手がけた。生粋の江戸っ子で頑固者是真だが、時流には逆らえず次第に新政府の皇室御用を務めるようになる。
明治23年(1890)帝室技芸員にも任命される。
 
 展示1は選り抜き名品揃い。
E-4《宝尽文料紙箱》宝尽くしが技巧尽くし。細やかな螺鈿細工。
E-19《流水蝙蝠角盆》コウモリのデザインがカタバミのハートでキュート
E-16《砂張塗盆》だまし漆器
茶事で菓子器として使用される金属製の砂張盆の形と質感→紙胎に変塗

E-13《柳に水車文重箱》
 青海波の川に、手前の岸辺には水車に若芽をつけた柳、榛の木などで春景。向こう岸に葛、女郎花、桔梗、薄などで秋景。
青海波塗:波文様→ 絞漆(しぼうるし・黒漆に鉛白、卵白を混ぜる)を櫛篦で掻き取りを表現
四分一塗:四分一(銅と銀の合金)の質感→ 漆に錫粉と炭粉を蒔いて表現
青銅塗:青銅(ブロンズ)の表面の質感→ 黒漆と炭粉、黄と青の顔料で表現

展示室4・5は是真の絵が並ぶ。次第にこってりと漆絵の豊かさへ
E-58《四睡図》禅師と寒山拾得、そして虎。愛らしい寝顔
E-62《白蓮図》蓮の蕾から花、枯れ行くまで描く
E-63《瀑布に鷹図》は滝に映った自分の姿を睨む鷹を、双幅の左右で表現
E-66《群蝶春秋草花図屏風》薄墨で愛らしい草花を描いた上に、華やかな蝶が舞う。コラージュ手法。
E-70《雪竹に子犬図》サービス精神満点 なんて茶目っ気!

J-15《花瓶梅図漆絵》
 紫檀地は、和紙に漆塗を施し、紫檀特有の木目を1筋1筋手彫りで再現。さらに原木で作ったような周囲の額も、樹皮や節の様子を筆で忠実に描いた漆絵。
硬質で重厚な木材のはずが、たった400g!

J-8《瀬戸の意茶入》だまし漆器 陶製の肩衝茶入の形姿を、竹胎に色漆塗を施し写す たった42g!

J-11《富士田子浦蒔絵額》明治5年(福富太郎コレクション資料室)
田子の浦から富士を望む雄大な風景を青海波塗、青銅塗を駆使した大作。67歳の是真は、取材のため富士登山に赴いた。

 洒脱なデザインと超絶技巧の数々のうち心に残るもの。
今回の展示解説は随分と肩の力を抜いた気軽な文章で、某ブロガーが書いたのではないかと思ってしまった。「瀑布は同じ構図ばかりで面白くない」「霊芝の表現がすごい」だの感情がストレートでおかしい。
 図録解説は、板橋区立美術館安村敏信氏と三井記念美術館の小林祐子氏が分担執筆している。漆技法解説は文章より展示6のパネルがわかりやすいかもしれない。なお展示品は三井記念美術館のHPに掲載と解説があり、行く前に予習しておくと面白さは一層引き立つ。絶対画像ではこの面白みはわかるまい。
 今回のセンスの良い図録デザインは岡本洋平。展示グラフィックデザインは高橋正実。