清方/Kiyokata ノスタルジア―名品でたどる 鏑木清方の美の世界―@サントリー美術館

鏑木清方(かぶらききよかた)(1878〜1972)

1月11日(月・祝)まで
開館時間:〔日・月〕10:00〜18:00 〔水〜土〕10:00〜20:00
 今回の展覧会図録では、《妖魚》、《道成寺・鷺娘》などコレクションを持ち生前清方と交流があった福富太郎氏と山下裕二教授の対談が面白い。図録にしてはかなりくだけた内容。

前期の印象(平成21年12月7日)
4《深沙大王》闇夜を行く男女の後ろに、物の怪が見守る。不可思議な世界
5《嫁ぐ人》明治の女子学生らしい。花束や指輪ネックレスなど本当に丁寧に描きこまれている。17《春雪》昭和21年終戦後の美人画。黒羽織を畳む武家の奥様。雪輪模様といい色彩も形も見事な美人画
11《妖魚》模索していた時期か。泉鏡花の作品から感化された作品と。母性と魔性を持ち豊かな黒髪の人魚が手にするのは、小さな虹色の魚。肉感で妖艶な姿が、一般的に知られる日本美人画とは異質ゆえ、模索の作品ではないかと思われるが。
アルノルト・ベックリンの人魚との類似を指摘するらしが、無関係だと図録では解説する。

16《一葉》愛おしいまでに凛とした姿。

後期の印象(平成22年1月4日)
10《暮雲低迷》しっとり湿り気を持つ風景がなんと美しいことか。
15《娘》胡粉を盛り上げた白梅の半衿
15《朝涼》業のスランプを乗り越えた時期の絵という。すがすがしい青。少女の黒髪を丁寧に描く。
18《洋燈》百合模様のランプを手にし、本を読もうとする夜会巻の女性
22《遊女》前回に負けないくらい。やはり泉鏡花「通夜物語」の下山を描く。
33《初冬の花サザンカだけでも香り立つように美しいのに、この色合い。
38《廓の宵》客と花魁を二つの軸に描く手法が面白い。異裂地を斜めに入れた表装。
24《二人美人図》琳派の杜若意匠を思わせる。若と姫の宝塚な雰囲気を持つお二人。
51《三遊亭圓朝》「やまと新聞」に連載した圓朝師匠の人情噺、その縁から描いた肖像画はその小紋が細やか。

59《寺子屋画帖》で、歌舞伎の舞台を達筆にその姿を描き留めるのが素晴らしい。生首の実見の部分など恐ろしい面もあり。
歌舞伎名舞台が次々と描きとどめられる隣に、
60《道成寺・鷺娘》妖艶な目元手元の娘。その狂おしき愛らしさに、男が女形を演ずる姿だろうか、舞う女だろうか歌舞伎を見比べ悩んでしまう。どちらだろう。龍になる前の清姫。鷺の精。
参考12《道成寺縁起絵巻》清姫が龍となり釣鐘を焼き尽くし、安珍が真っ黒こげ骸骨になっている図が出ていた。複雑な気持ち。

鏑木清方は明治から挿絵画家、そして日本画家へと進み様々に江戸から生きた時代の人まで自由に活写した。しかも髪の毛一本一本愛しむように丁寧に。
また「こしかたの記」での文章も大変素晴らしい。
幻想も夢も、そして現実をも描いた人。
鏑木清方の画風の広さ豊かさ。
父「やまと新聞」挿絵から、本絵にいり、 明治文学の泉鏡花の妖しく美しい耽美で幽玄な世界を描く。
歌舞伎の舞台、江戸情緒な佇まいから、明治大正昭和の時代に生きた市井の人々をも活写する。
幸田露伴の「天うつ浪」木版下絵で柴田是真の手あぶりが描写として出ており、挿絵に描かれる。清方自身も是真と交流があり、是真の文具を手荒に扱うのは自分だけだろうという程愛用したようである。
『こしかたの記』や「余が愛する是真物」『書画骨董雑誌106号(大6)』など寄稿がある。
こしかたの記 (中公文庫)