【文楽】 天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)@国立劇場

シェイクスピア原作『テンペスト』を文楽として上演!
天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)』

 シェイクスピア原作が、中世日本の九州と南島が舞台となり、主要な人物は艶やかな着物で振袖、裃なのだ。南国なのに..暑かろう。そして、泥亀丸や英理彦といった異形もの。もっと驚きなのは 「森の中の異形の者たち」と すっかりシュールレアリスムなお伽噺の世界。舞台背景にヤシやラフレシア 文楽でこの舞台背景は..と思うほどリアルな南国情緒だ。して本題。

 冒頭は嵐の場面 青地の海の中を 六挺の三味線と新たに十七弦を加え、総勢七人が舞台正面に並び、迫力ある演奏で嵐を表現する。
 異形が登場すると、十七弦や半琴の音や文楽らしからぬリズムを使って雰囲気を表現する。

 さらに脚本には 文楽って面白いと思わせるべくか、子供たち向けサービスの脚本のせいか、携帯電話や 朝青龍の名が、こっそり笑いを取り入れて義太夫に語らせているのも...

 阿蘇左衛門が導入部で怖ろしい頑固親父だったのに、すっかり最後のシーンに至るまでに大変身。その変化が面白い。

 人形遣いが面白いと思ったのは、美登里と春太郎の出会いシーン。人形同士が絡み合うのも巧く表現を尽くしている。美登里を手篭めにしようと泥亀丸が襲っている所に、うまく春太郎登場だ。

 シェイクスピアのロマンス劇を坪内逍遥が翻訳し、それを山田庄一氏が脚本している。
文楽らしく物語の流れを追うように心がけました。時代物として脚色したので、立役には「物語」や女形には「クドキ」という見せ場も必要です。そこを意識して台本をつくっていきました。
 今回は原作のエピローグにあるプロスペローの独白を新たにつけ加えます。演出する上で、この部分は面白いと思います。ここでは通常の文楽では見られない、舞台に一人だけ残った阿蘇左衛門がお客様に語りかけるような新しい演出も考えていますが、全体的にできるだけ古典に近い舞台となるように心がけて演出するつもりです」

 甘い御伽話だが、文楽ならではの演出も感じられ、高尚なる人形劇の印象。
多分あの異形たちが文楽らしからぬ斬新さを与え、近松門左衛門ラブな観客には苦手かもしれない。義太夫の語りっぷりに惹かれた一夜だった。
 
 『天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)』は、明治の劇作家・坪内逍遙によって翻訳されたシェイクスピアの『テンペスト(あらし)』をもとに、山田庄一が舞台を中世の日本に置き換えて脚色し、鶴澤清治が作曲を担当した平成の新作文楽です。

 平成3年(1991)、ロンドン・ジャパンソサイティー100周年を記念した『ジャパンフェスティバル』に、シェイクスピアを題材にした伝統芸能の上演が企画され、『葉武列土倭錦絵』(歌舞伎版『ハムレット』)、『法螺侍』(狂言版『ウィンザーの陽気な女房たち』)とともに、文楽版『テンペスト』としてロンドンで上演されるはずでしたが実現できず、その翌年の平成4年(1992)2月に近鉄アート館(大阪)、パナソニックグローブ座(東京)で初演されました。

 今回は国立劇場国立文楽劇場の共同制作で、国立文楽劇場の夏休み文楽特別公演と国立劇場9月文楽公演で連続上演することが決定しました。

天変斯くて止み 嵐 后に晴れとなる

テンペスト―シェイクスピア全集〈8〉 (ちくま文庫)